新庄徳洲会病院

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掲載日付:2012.05.15

Vol.72 米国における前立腺癌検診論争

 前立腺癌は米国人男性の20%がなると言われ、癌の死亡原因では肺癌についで2位です。もともと日本人は少なかったのですが、高齢化や食生活の欧米化と診断技術の向上により急速に増えています。

 前立腺癌の発見には、①肛門から指を入れて前立腺を触診、②血液検査で前立腺特異抗原(PSA)を測定、③超音波検査、の3つを組み合わせることが一般的です。PSAは1970年に発見され、1990年代の初めに他の診断手技よりも鋭敏であると報告されてから急速に広まり、米国では年間3000万人以上が検査を受け、 我が国でも頻繁に測定されています。

 ところが、昨年米国でPSAによる検診は推奨できないという勧告が出ました。PSAは前立腺肥大や炎症でも高値になることがあり、診断を確定させるためには前立腺に針を刺して細胞を取る検査が必要です。また、前立腺癌はゆっくり進むことが多く、「癌で死ぬ」人より「癌を抱えたまま死ぬ」人の方が大幅に多いのです。したがって、PSAが高値であるというだけの理由で「不必要な」検査や治療を受けた患者が、尿失禁やインポテンツ等のやっかいな後遺症を残したり、極端な場合は死亡することを考えると、「何もしないしなほうがよい」と結論したのです。実際、80歳以上の男性を死後に解剖して調べると、米国では75%、日本でも40%に前立腺癌が見つかります。

 これに対して、患者や専門医の団体は患者を見殺しにするのかと猛反発しました。これだけ多くの人が受けている検査は企業にとっては魅力的な市場となっていることも問題を複雑にしています。そのような中で、PSAの発見者である米国のリチャード・アブリンが、ニューヨーク・タイムズに次のような文章を寄稿しました。「自分が40年前にした発見が,金銭的利益をもくろむ人々に利用されて『公衆衛生上の災厄』をもたらすことになるなど夢にも思っていませんでした。医療界は,現実を直視し,PSAによる不適切な検診をやめなければなりません。やめることで何十億ドルもの医療費が節約できるだけでなく,何百万人もの男性が不必要な治療による厄介な副作用の犠牲となることを防ぐことができるのです。」

 誤解のないように付け加えると、PSAの役割が疑問視されているのは、検診の領域であり、癌の治療効果の判定や進行具合を見るのにはには非常に有用です。さて、我が国の前立腺癌検診への影響はあるのでしょうか。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第693号 平成24年5月15日(火) 掲載


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