新庄徳洲会病院

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掲載日付:2010.06.15

Vol.48 タバコは吸わないけれど…

 週に一度、病院周りのゴミ拾いをしていますが、圧倒的に多いのはタバコの吸い殻で、車の吸い殻入れの中身がそのまま捨てられていることもあります。こんなときはタバコなどなくなってしまえと思いますが、昨今の喫煙者へのイジメとも思えるような風潮も好きになれません。

 我が国の禁煙運動の理論的裏付けとなったのは、1966年から82年にかけて厚生省が行った大規模な疫学調査です。「喫煙しない人」が「毎日喫煙する人」より死亡率が低かったのですが、実は「時々吸う人」が一番低かったという事実が当時は公表されませんでした。「受動喫煙」の影響はこの調査結果からはどうみても証明できません。初めから喫煙は身体に悪いという結論があり、それを裏付けるためのデータが欲しかったというのは言い過ぎでしょうか。

 とはいえ私も、タバコはいろいろな病気に影響があると思います。肺気腫や心筋梗塞や脳梗塞の人はやめた方がよいでしょうし、妊娠中の胎児への影響は間違いなさそうです。癌は遺伝子に関する病気なので、もともと遺伝的に癌になりやすい人はタバコを吸うことで癌になることがありそうです。逆に遺伝的になりにく人はどんなに吸ってもならないこともあります。結局タバコがなくなっても、癌が劇的に減り、人の寿命が飛躍的に伸びることはないと思います。

 他にも健康を害するものはありますが、なぜこれほどタバコだけが狙い撃ちにされるのでしょうか。それは、現代日本人にやどる健康至上主義ー健康と病気、生と死を対立するものと捉え、健康に生きるためには他の全てを犠牲にしても構わないという考え方ーだと思うのです。彼らがやっかいなのは「正義」を背負っていることです。名コラムニストの故山本夏彦先生は「汚職は国を滅ぼさないが、正義は国を滅ぼす」とおっしゃっています。タバコのお陰でよい作品を残せた文学者は数多くいるでしょうし、人生が豊かになることだってあるはずです。

 私はタバコを吸いません。それは健康のためでなく、吸っても楽しくないからです。私が喫煙者に強く求めるのはマナーです。分煙さえできれば吸う吸わないは嗜好の問題です。タバコを吸う人と吸わない人が、うまく共存できる社会の方が成熟した社会だと思います。自分と異なる価値観の人に対する不寛容さがもたらすストレスは、タバコなどよりはるかに身体にも心にも悪いのではないでしょうか。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第647号 平成22年6月15日(火) 掲載


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