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掲載日付:2024.04.01

Vol.277 宝くじではギャンブル依存にならないか?

 メジャーリーグの大谷選手の専属通訳が、違法なスポーツ賭博で球団から解雇されたことが話題になっています。彼は「ギャンブル依存症」と認めているようですが、これは我が国でも社会問題となっています。厚生労働省は、特定の何かに心を奪われ「やめたくても、やめられない」状態になることを依存症と定義しています。依存性の高い物質や行為によって脳内にドパミンという物質が増加し快感が得られるだけでなく、ドパミンがなくなると不安や不快が強くなり、異常な行動に走る精神疾患の一種です。大事なことは原因となるものに関わらないことと、なってしまったら早めに治療を受けることで、一時的な金銭援助や厳罰では問題は解決しません。

 対象としては、アルコール・薬物・ギャンブルが代表的ですが、最近では若者を中心としたゲームも増加しています。ギャンブル依存というと、我が国では競馬・競輪・競艇などの公営競技やパチンコが対象となるイメージが強いのですが、意外なことに宝くじも原因になることが少なくないようです。宝くじは、非常に身近で人目をはばかることなく購入でき、人気タレントを起用したコマーシャルの影響もあり、悪いイメージもありません。宝くじを買ったことがある人は、60%以上という調査もあります。誰もがのめり込みやすいものです。久里浜医療センターの調査では、依存症の問題を抱える人が過去1年間に行ったギャンブルでは、パチンコについで2位です。パチンコは、ギャンブルではなくゲームというのが国の見解ですが、実際は宝くじと同様に気軽にできる博打で、掛け金の総額では群を抜いています。

 私はギャンブルには興味がなく、宝くじも買うことはありません。理由は、儲かる確率があまりに低く、当選が完全に偶然で決まることに魅力を感じないからです。販売所に「1等が出ました!」という張り紙がされているのを見かけますが、大当たりが出やすい店があるとすると、くじ自体がイカサマであることになります。宝くじが買った人に戻る割合(還元率)は、約47%です。例えると、総額100億円の宝くじを全部買い占めても、得られる賞金は47億円しかないということです。公営ギャンブルは70〜80%で比較的良心的ですが、これも海外のカジノが90%以上あることを考えるとずいぶん低いことになります。宝くじの収益の約37%は公共事業などに使われますが、公共事業は国や自治体の予算で行われるべきものです。散々税金を取った上に、さらに一攫千金を求める人から巻き上げているとしか思えません。

 日本では江戸時代に「富くじ」として始まり、寺の改修費に使われていましたが、江戸中期には禁止され、その後も行われることはありませんでしたが、昭和20年の終戦間際に戦費調達のために、「宝くじ」の名が使われました。戦後は復興資金として政府が行いましたが、その後は自治体が中心となり、オリンピックなどの国家的行事への協力の名目で行われ、高度経済成長とともに賞金も高額になりました。宝くじに限らず我が国のギャンブルには後ろ盾となっている管轄官庁があります。宝くじは総務省、競馬は農林水産省、競艇は国土交通省、競輪とオートレースは経済産業省、スポーツくじは文部科学省、そしてパチンコ・パチスロにはなぜか警察庁がついています。当然、ギャンブル業界は、管轄庁の役人の天下り先になっています。国とメディアが後ろ盾になって博打を推奨して、国民から金を巻き上げ、ギャンブル依存を放置している現状は憂うべきです。海外のカジノは一般社会と隔絶しているようですが、これを統合型リゾート(IR)として都会の真ん中に作る計画には反対です。ギャンブルは、厳格なルールのもとに民間が行う方が健全だと思います。パチンコ業界から北朝鮮に多額の資金が流れていることを日本人は忘れてはいけません。このような現実は中学校で教えたほうがよいと思います。


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