医療法人徳洲会 新庄徳洲会病院

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新庄徳洲会病院 院長の偏屈コラム/病院ブログ


掲載日付:2023.10.28

Vol.271 認知症治療に革命は起こるか?

 8月25日に厚生労働省は、日本のエーザイとアメリカの製薬会社が共同で開発したアルツハイマー病の治療薬であるレカネマブ(日本での商品名はレケンビ)を正式に承認しました。これまでの抗認知症薬とは異なり、患者の神経細胞に蓄積する「アミロイドβ」という異常なたんぱく質に対する抗体で、その物質を減少させて症状の進行を抑えることが期待され、早ければ年内にも使用可能になりそうです。これは注射薬で、副作用と蓄積物質の変化を見ながら、2週間に一度の頻度で注射を続けます。対象は、軽症のアルツハイマー病と軽度認知障害と呼ばれる患者で、アミロイドβが蓄積している証明が必要なため、アミロイドPETという限られた施設でしかできない高額な検査や腰椎穿刺で脳脊髄液を調べることが条件になります。

 この薬はアルツハイマー病を治すのではなく、進行を遅らせるもので、しかもその効果は「認知機能の悪化を27%遅らせる」程度です。ということは、症状が悪化しても「効いているからこのくらいで済んでいるのかもしれない」という理屈が通用するので、治療をやめる判断はできません。また、副作用としては、約17%に脳出血があると報告されています。薬価はまだ決まっていませんが、先行使用している米国では一人あたり年間に約2万6500ドル(約400万円)が必要です。対象となる患者は、我が国では数百万人に上ります。対象の絞り込みを行うにも高額な検査が必要で、合計すると年間数兆円が必要になります。つまりこの薬は、治療効果はそれほど高いとは言えず、その効果の判定も難しく、軽症患者に使うほど効果があるので対象を広げる必要があり、しかも対象者を選ぶには高額な検査が必要なるというかなり厄介な薬と言えます。

 日本は、「人の命は地球より重い」と発言した首相がいるくらい生命至上主義がまかり通る国です。日本で最も薬価の高い薬と呼ばれた「ゾルゲンスマ」は、難病の脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療薬ですが、数年前に約1億6700万円の薬価で承認されましたが、私はこれには賛成です。理由は人工呼吸器管理が必要になる子供が減ることと、この病気が希少疾患であることです。アルツハイマー病の多くは高齢者で、その頻度は認知症の60%程度と言われています。世界情勢が不安定化している中、経済が停滞している我が国で、高齢者の認知症の進行を遅らせることにどれだけのお金をかけることが妥当なのでしょうか。レカネマブが年齢を問わず、長期間使い続けられたら、医療制度が破綻するだけでなく、社会全体に大きな影響を及ぼすでしょう。

 新しい技術が生まれると、それを改良したものが次々に生み出されます。現にレカネマブの次には「ドマネマブ」という薬が開発され、すでに承認申請されています。効果はレカネマブより高いようですが、「35%遅らせる」という程度です。27%と35%の差は微妙ですが、薬価はレカネマブより高くなる可能性があります。また、副作用の脳出血は逆に増加し30%を超えます。同様のことは認知症治療に限らず多くの医療分野に見られ、特にがん治療においてはさらに深刻です。医療費の伸びを抑制し、多くの国民の生命と財産を守るためには、優先順位を明確にする必要がありますが、残念ながら、既得権益を守ろうとする勢力と安価で高品質の医療を受けることが当然の権利と考える国民性がある限り、有効性が少ない医療を止めることは、新しい医療を始めるよりも遥かに難しいのです。新薬が革命的な変化を起こす可能性は否定しませんが、革命はよい結果をもたらすとは限りません。効果は乏しいが、医療費が崩壊したという悲劇的結果も想定すべきです。人の命はお金では買えませんが、お金がないと医療が成り立たないことは間違いありません。全体の不幸を減らすためには、この程度の不幸までは受け入れるという覚悟を持たねばなりません。

掲載日付:2023.10.02

Vol.270 同時流行を心配しても…

 インフルエンザは、我が国では1月下旬から2月初旬をピークに減少し、夏にはほとんど患者が発生することはありませんでしたが、コロナ騒動以来ほとんど発生していません。今年は例年の1/4〜1/3と少ないものの同様のパターンで推移しましたが、夏が近づき猛暑を迎えても、患者が少ないながら続き、9月には早くも増加に転じ、学級閉鎖も報道されています。コロナも第9波を迎え、同時流行を警告する専門家も少なくありません。

 インフルエンザが夏にもなくならなかった原因は諸説あり、3年間も流行しなかったのでウイルスに対する免疫を持たない人が増えたと主張する一方で、過剰な清潔指向などの行き過ぎた感染対策や新しいワクチンを多くの人が使用したために免疫が低下しているという指摘もあります。また、これまで夏には行わなかった検査をするようになったからという意見もあります。インフルエンザの患者数はコロナを大幅に下回り、被害もそれほどでもない現状で大騒ぎする必要はないと思います。今の時期に流行すると、冬には免疫保有者が増えるので、感染があまり増えないかもしれません。また、インフルエンザが流行するということは、コロナが下火になる前兆かもしれません。現に直近の2週間では全国的にコロナの発生数は減少しており、第9波はピークアウトする可能性もあります。いずれにせよ、我々にできることはこれまでと変わらないのです。これまで色々な感染予防策が試みられましたが、有効で安全なものがあったでしょうか。人間が感染症を制御できると考えるのは傲慢で、どのように共存するかを模索すべきです。

 猛暑の中で屋外でもマスクを付けている人は珍しくなく、首都圏の主要駅周辺では半数程度はいたと思います。マスクの感染予防効果は限定的で、肉体や精神への悪影響が少なくないことは実感できたと思うのですが、それでもこれほどの人がマスクをつけています。病院でも原則は不要だと思います。難聴の高齢者は相手の口を見て言葉を読むことが少なくありません。マスクをしていると大きな声を出す必要があり飛沫は増えます。私は高齢者と話をするときにはマスクを外すことが少なくありません。感染が疑われる人に接するときにはつけたほうがよいでしょうが、それ以外は花粉症予防と冬の乾燥に対する保湿と防寒対策くらいにしか役に立たないと思います。喉や鼻のうがいも有効性は限定的ですが、害がないので私は実践しています。調子が悪いと思ったらおとなしく寝ていることです。身体を横にして水分と塩分とほどほどの栄養を摂ることを心がけます。特に初期は身体を冷やさないことが重要で、少し熱が出たからと言ってすぐに解熱剤を使わないようにします。発熱するほうが感染への防御力が発動しやすいのです。

 ワクチンについては難しいところですが、今のところ言えるのは、①コロナワクチンの感染予防効果は非常に限定的、②重症予防効果は1年くらいありそう、③副反応はこれまでの中では強く長期的には不明な点が多い、④インフルエンザワクチンもmRNAワクチンが作られ治験が進行しており来年には実用化される可能性がある、⑤インフルエンザとコロナの混合ワクチンも実用化される、といったところでしょう。日本はコロナワクチンの追加接種が世界でもトップクラスの多さで、無料化が終了しても年2回の接種が推奨されるのではないかと思います。しかし、重症予防効果が1年程度あるのなら年1回で十分ですし、コロナ感染した人はワクチンを接種するメリットが非常に少ないと思います。とにかくmRNAワクチンは免疫への影響が強いので、それが吉と出ることも凶と出ることもあるのです。副反応が十分に検討されておらず、データも公表されないものを、積極的に勧める政府やそれに盲従するメディアの姿勢には疑問を感じずにはいられません。インフルエンザにもこれまで用いてきた不活化ワクチンで十分だと思います。

掲載日付:2023.08.22

Vol.269 マイナンバーカードと保険証の問題

 内閣支持率の低下の主な原因はマイナンバーカード(以下Mカード)のトラブルと言われていますが、それほど深刻なものでしょうか。確かにコンビニで住民票など別人の証明書が発行されたのは個人情報の漏洩です。また、健康保険証・年金・公金受取口座などでの登録情報の誤りや、介護療養費5万数千円が同姓同名で同じ生年月日の別人の口座に振り込まれる事例も発覚しましたが、大多数は本人以外の家族の口座を登録した事例です。これは本人または家族が行えばほとんど防ぐことができ、その他の発生頻度は1万件に1件程度です。

 このような騒動の中で、健康保険証をMカードと一体化することにも不満が出ています。日本の国民皆保険制度は、誰もが少ない自己負担で、均一の医療が速やかに受けられるという世界にも例のないものです。2003年の厚労省の研究では、保険情報の誤りや不正使用が年間600万件もあり、その処理のための経費が1000億円を越えると推定され、クレジットカードのような認証システムを導入すれば解決すると述べられています。それがマイナ保険証で解決できるのであれば大きな意義があります。また、これまでの保険証には、本人確認ができないという欠点があり、他人の保険証を使って医療を受ける「なりすまし受診」の問題もあります。我が国では3ヶ月以上滞在する外国人は国民健康保険に加入できるので、実質的には保険料を収めずに日本の医療にタダ乗りする者もおり、健康保険証が違法に販売されているという話さえあります。

 私は一体化に賛成ですが、現在のやり方はあまりにも拙劣で拙速です。マイナポイントを餌にしてMカードを普及させて一気に一体化させようとしていますが、どの医療情報を連携するか、その際に弱者が不利益を被らないようにするかを、時間と労力をかけて進めるべきです。住基ネットの失敗から学んだことを活用する時間は十分にあったはずです。従来の保険証を本人確認ができるように使用法を変更して当面は残すという選択肢もあるはずです。そもそもMカードはオンラインで使用できる身分証明書であり、それ以上でも以下でもありません。Mカードを導入すると個人情報を国に知られると言いますが、その気になれば個人情報を国は簡単に手に入れることができるはずです。問題は、いつどこで誰がどのような目的で情報を利用したかを透明化するかということです。Mカードと銀行口座が紐付けられれば、コロナの交付金はあっという間に安い経費で配ることができたでしょう。多額の残高がある口座と紐づけするのが危険であることは、クレジットカードと同じで、これは自己責任です。他人の手に渡った時の被害は現在のMカードはクレジットカードより少ないと思います。Mカードの返納を進める勢力がありますが、これは意味がありません。不安なら口座との紐づけをしなければよいのです。

 私が最も不安なのは、国民の膨大なデジタル情報を安全に管理できるかということです。安全保障上問題視されるTikTokを使って、Mカードの普及啓発を行うデジタル担当大臣の感覚は異常です。彼は、コロナワクチンの安全性と有効性を過剰に強調し、利益相反の疑いさえある太陽光発電を激押ししています。安全保障体制が世界一甘いことが知れ渡っている中で、国民の膨大な情報が盗まれたり、システムが破壊された時の被害は甚大です。便利なものはリスクが高いのです。デジタル化は経済成長にもつながりますが、大惨事も招きます。デジタル化の最先進国であるエストニアは、かつてロシアからのサイバー攻撃を受けて、行政機能が停止したことを猛省し、安全性を最優先しました。鎖国して生きていくことができない現代で、性善説が通用しない人と共存して、最も弱い人のことも守る制度を構築することが、今の政府にできるのでしょうか。的はずれな批判を繰り返すメディアにも煽られないように私達も賢くならねばなりません。


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