新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.08.12

Vol.224 自宅療養を阻むもの

 7月下旬から新型コロナの感染が拡大し、首都圏では「医療崩壊」が叫ばれています。そのような中で、政府が「中等症患者も自宅療養を基本とする」という方針を打ち出したと、野党やマスコミは激しく批判し、与党内からも撤回要請されています。中等症には酸素吸入を受けている人が含まれるため、そのような人に対しても自宅療養を基本とするのかという主張ですが、これは明らかに誤報です。政府側の説明不足はあるものの、すでに昨年から年齢や全身状態に一定の基準を設けて、在宅や宿泊での療養を行っており、本来は入院が必要とされる場合でも、医師の判断で自宅療養も可能とされています。本来は入院か外来かの判断は医者が行うべきであり、保健所の仕事ではありません。重症者が入院できない事態を避けるために、軽い中等症は自宅療養と強調したに過ぎず、菅首相が撤回を拒否したのは当然です。彼に必要なのは、人の心に響くように話すのが苦手なら、詳細は広報担当者に任せ、要点だけでも自分の言葉で堂々と語ることです。これまでの政策が感染者を減らすことに偏っていたことは責められるべきですが、ワクチン接種はマスコミの批判とは裏腹に1億回を超えました。ワクチンが重症化予防に有効と考えるなら、若い世代は後回しに40−50代への接種を優先し、首都圏が逼迫しているのであれば地方は後回しにすればよいのです。どのようなやり方をしても批判する奴はいます。全ての人を満足させる政策などないのだから、選挙も大事でしょうが、今こそ政治生命をかけて行動すべきです。

 私はマスコミにより強い不信感を持ちます。政府の発表を正確にわかりやすく伝えた上で意見を表明するのが役目のはずが、政権批判が目的となり、今回は重症者以外は入院できなくなると恐怖心を煽る誤報を流しました。もし軽症者が病床を占拠して重症者が入院できない事態が生じたら、優先順位をつけられない無能な政府と批判するのは目に見えています。

 自宅療養のリスクを強調するニュースが、8月初旬にTBSとFNNから相次いで独自取材として出されました。前者は、7月下旬に新型コロナの重症である都内の50代の男性が救急搬送を要請したところ、100の医療機関から体制の不備を理由に断られ、8時間後に50Km離れた病院に収容されたというものです。東京は医療機関や人口あたりの医師数が多いだけでなく、昨年6月からは独自の東京ルールにより「搬送開始から20分以上かかるか、5カ所以上の医療機関から搬送を拒否された場合、都が指定する【新型コロナ疑い地域救急医療センター】で患者を必ず受け入れる」体制ができています。したがってこのような事態が起これば、行政側で把握しているはずですが、川松真一朗都議会議員の調査ではこのような事例は見つけられませんでした。行政側の隠蔽や特殊な状況だった可能性もありますが、TBSの誤解に基づく(もしかすると意図的な?)報道かもしれません。後者は、8月になり都内で自宅療養中に死亡した男性が8人(30代1人、40代1人、50代6人)発生し、急激に増加しているというものですが、同時期の都内の死亡者数は9人で、TBSと同様に行政側はこの事例を確認できませんでした。独自に調査した可能性はありますが、行政の発表を安易に利用している今のマスコミにそのような能力があるでしょうか。どちらのニュースにも続報はありません。表面的な事実を垂れ流すのではなく、事件の背景を取材し、問題を掘り下げるのが彼らの役割のはずです。行政側もマスコミに問い合わせるべきですが、取材源の秘匿を盾にして事実関係は不明のままになるでしょう。このようなニュースを自宅療養中の人が目にしたら、自分が悪くなっても入院できないのではと不安になるのは当たり前です。我が国は、いつでも誰でもが、ばらつきの少ない医療を安価で受けられる国です。それを当然と思っている国民が、無用な危機感を持てば不要な受診が増え、本当に医療が崩壊してしまいます。マスコミは、自らも気がつかないうちに国民の不幸を願っているのでしょうか。


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