新庄徳洲会病院

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掲載日付:2022.01.26

Vol.236 「健康な子供にも意義がある」には異議がある

 日本小児科学会は1月19日にホームページ上で、「5~11歳小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」を公表しました。主な内容は以下の2点です。①基礎疾患のある子供への接種により重症化を防ぐことが期待される。接種に際しては主治医と養育者の間で事前に相談することが望ましい。②健康な子供への接種は意義があり、メリットとデメリットを本人と養育者が十分に理解し、きめ細やかな対応が必要である。根拠となっているのは、約2300人の小児で予防効果が90%(発症者が非接種者では16人、接種者では3人)だった米国での治験で、副反応の多くは軽度または中等度でしたが、約10%は学校を休み、約1%は医療を要しました。その後のVAERSと呼ばれる予防接種安全性監視システムによる調査でも副反応は軽度とされていますが、このシステムは全国からあらゆる有害事象を自発的に登録できる利点がある反面、接種群と非接種群の比較や因果関係の検討ができないなどの欠点があります。実際、米国でのこの年代のワクチン接種率は30%以下に留まっており、日本の12歳以上の接種率の半分以下です。

 我が国では10代の陽性者約20万人のうちで、治療を要した者は約1万人で、99.9%以上は回復しています。重症者は6人、死者は4人(うち1人は交通事故死、1人は悪化した基礎疾患による死亡、残る2人も基礎疾患あり)で、健康な子供の死者は0です。10歳未満の陽性者は約11万人でそのうち重症者は7人、死亡者は0です。一方で、米国ではデルタ株によりこの年代の200万人が陽性となり700人が死亡しています。2倍以上の人口差を考慮しても大差と言えます。

 基礎疾患がある場合は接種、健康な場合はよく相談という今回の発表を受けて、メディアはこぞって「健康な子供にも意義がある」という見出しを打ちました。①の「期待される」ということは証明されていないということです。ワクチンが発症や重症化を防ぐことが期待されるのは当然のことですが、今回発表された中にも、「海外では、5〜11歳の小児に対する発症予防効果が、新しい変異ウイルス(オミクロン株など)では十分に得られていません。」と書かれています。感染予防効果に疑問があるので、重症予防効果に期待したいということなのでしょう。しかし、上記のように我が国では重症化することが非常に少ないことが分かっています。さらに、健康な小児については、よく考えて決めろということですが、小学生はもちろん、一般の親がこの記述を読んで理解できるでしょうか。両親の意見が対立することもありえます。接種してもしなくても、生じた害は自己責任でお願いしますということでしょうか。

 ワクチンに限らずほとんどの医療行為は「有害有益」です。有害無益は論外ですが、無害である医療行為は原則としてないと考えるべきです。私が小児へのワクチン接種に反対なのは、利益があまりにも小さく、被害が大きい可能性があるからです。インフルエンザワクチンの有効性はさほど高くありませんが、副反応被害は非常に少なく、新型コロナ流行前の2年間で6100万人余りが接種を受け、副反応の報告は333件で、うち重篤例は93件、死亡例は6件です。一方新型コロナでは、12歳〜19歳の約680万人が接種を受け、副反応が疑われる報告例で、重篤な副反応は387人、死亡は5人です。疑い例の中で「ワクチンとの関連が否定できない」に分類されたのは0で、ほぼ全てが「関連が評価できない」と結論されていますが、厚労省のホームページで詳細を見ると、「否定できない」に分類されるべきと思える例が少なくありません。コロナ被害は過大に、ワクチン被害は過小にする姿勢には大きな問題があります。利点と欠点を比較した上で、学会として接種を勧める理由を明示し、思わしくない状況が起こったときは、状況を開示し、今後は方針を変更しますと誠実に言うのが専門家の責任のとり方だと思います。


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