新庄徳洲会病院

menu

<

掲載日付:2020.03.31

Vol.178 大事なのは死亡者数

新型コロナウイルスの感染者(以下新型コロナ)が、東京で連日40人を超えて都市封鎖まで囁かれています。早期に制圧することはできない段階に入ったと言えます。感染者も死亡者も今後増加しますが、問題はそのスピードです。無症状や軽症患者は病院外で見られるように制度変更する必要はありますが、感染がゆっくり広がれば重症者は急増しないので、医療を受けられない患者を最小限にすることができます。予防や治療の対策も進み、感染から復帰できた人は、普通の経済活動が可能になり、医療者であれば、厳密な防護措置も不要になります。「ウイルスとの戦いに勝利する」と勇ましいことを言うより、「負けないように共存を図る」べきです。

 インフルエンザの感染者は、昨シーズンに比べて早くから増え始めましたが、昨年末がピークで、今年に入ると急激に低下しています。それでも、3月第1週の感染者数は14万人以上と推定されています。新型コロナとは桁違いです。昨年インフルエンザが直接死因となったのは3000人以上、関連した死亡は1万人以上と推計されています。インフルエンザに比べると、いまのところ、新型コロナの害はかなり軽いようです。昨シーズンよりインフルエンザによる死亡は減ることは間違いないので、その減少分を新型コロナによる死亡者が超えなければ、肺炎で死んだ人が例年以下になる可能性すらあります。私達は年間約130万人(1日約3500人)以上が死ぬ社会で生きています。これが今年も変わらなければ、たとえコロナが大流行しても、死ぬべき人が死ぬべき時に死んだだけということになります。もちろん、若者が多数死ぬようなことがあっては困りますが、その心配はなさそうです。

 私は、新型コロナを治療したことはありませんが、いまのところ特効薬はないので、やることは通常の肺炎の治療と大差ないと考えています。高齢者や基礎疾患のある人は死に至ることが多いようですが、これも他の肺炎と同様です。若くて元気な人は、感染予防をしながら通常に近い生活をし、リスクの高い人と接触しないようにすることです。リスクの高い人は可能な限り人との接触を断つことです。高齢者施設や病院の職員は通常の人以上に強い健康管理と感染予防が求められることは言うまでもありません。すべての人に言えることは調子が悪ければ休む、これはただごとでないと思ったら医療機関を受診する。これに尽きるのです。

 我々は得体の知れないウイルスと向き合っています。得体が知れないものは人を不安に陥れ、不安は恐れを生みパニックへと導きます。感染経路を遮断すると感染症は抑え込めますが、完全な遮断は現代社会では不可能です。人や物の動きを強力に抑制すると、社会生活は成り立たなくなります。自粛圧力の影響で経済活動はすでに影響を受けています。おそらく失業率は上昇するでしょう。失業率と自殺者数は驚くほど強い相関関係があります。失業率が1%上昇すると、年間の自殺者は2000以上、中には4000人増えるという研究報告もあります。病気で死ぬ人も自殺で死ぬ人も同じ生命です。「生命と金とどちらが大事か!」と声高に叫ばれると、だれしも「生命」と答えざるを得ませんが、生命を尊重するために行ったことが、より多くの生命を失うこともありえます。極端に走ることなく、絶えず修正しながら、抑制と活動のバランスをとることが、非常に難しいことではありますが求められることだと考えます。ウイルスも人間も、ある程度は科学で解析可能ですが、時として人間の行動は驚くほど非科学的になります。生存に不可欠でもないトイレットペーパーが、なくなるはずがないのに小売店から消え、それを煽るように報道するメディア、やはり私はウイルスよりも人間のほうが怖いです。


menu close

スマートフォン用メニュー