新庄徳洲会病院

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掲載日付:2020.12.02

Vol.203 GoToトラベルと医療崩壊

 新型コロナのPCR検査陽性者が急激に増加し、「GoToトラベル」と「医療崩壊」が話題になっています。人の移動や接触は感染を広げる要因ですが、7月下旬から4ヶ月経っていることを考えると、気温と湿度の低下が主な原因だと私は考えます。南半球のオーストラリアは、今年前半は人口10万人当たりの死亡者数が日本よりもずっと少なかったのですが、7月中旬から9月上旬までに約8倍に増加し、日本の2倍以上になりました。その後あたたかくなってからは横ばいの状況です。我が国の死者は今後増加する可能性が高いと思います。

 冬に感染が拡大することはかなりの確率で予想されていました。経済政策であるGoToトラベルは、感染拡大に際して「やる」か「やめる」かの二者択一ではなく、いろいろな修正プランが用意されていなければなりません。例えば星野リゾート代表の星野佳路氏の「繁忙期の補助率を下げる」や「補助率が大きすぎるので縮小する」などの提言は、密を避けるには有効と思います。個人的にはGoToトラベルは利用する気はありませんが、人の集中を避けるためには一斉に休暇を取る習慣をやめるべきです。金持ちの外国人に媚びを売るインバウンドに頼らないきっかけとして、この騒ぎを捉えて、自国民が近場へ旅行することを推奨すればよいとも思います。

 陽性者数の少ない地域で医療に携わっている臨床医歴35年の爺医には、1000万人都市である東京の医療体制が、50人程度の重症者で崩壊するとは肌感覚としてイメージできません。東京の「重症」の定義は他の地域と異なり、人工呼吸器や人工肺(ECMO)を使用している患者に限られています。東京だけが異なる基準をもつことはデータを比較する上では不都合なのですが、他の自治体は、病状に関わらず集中治療室(ICU)に入っている患者を全て計上しているので、新型コロナ患者をまとめてICUに収容する病院の軽症者が含まれてしまいます。この点では小池都知事が正しく、全国の重症者数400人超というのは割り引いて考えなければなりません。

 欧米の感染再拡大は深刻で、例えばフランスの重症者は我が国の約10倍です。人口が約半分なので医療負荷は20倍と考えられます。我が国はICUの病床が少ないと言われていますが、急性期病床を含めると人口あたりの病床数は世界一です。急性期病床で人工呼吸器は普通に使用されているはずです。人工呼吸器を扱える医師は少ないという指摘も的外れで、今では臨床工学士が医療機器の管理までしてくれることを考えると、日本の救急医療体制が貧弱とは思えません。

 医療崩壊は、新型コロナに限らず、救えるはずの命が救えず、重症化しなくてよい人が重症化することだと思います。医療崩壊が本当に迫っているのであれば、新型コロナを特別扱いすることをやめるべきです。インフルエンザの1/100の患者数、1/5程度の関連死亡者数の病気に対して、どのように向き合うのが適切かを冷静に考えるべきです。確かに重症化率はインフルエンザより高く、突然に重症化することもあるようです。しかしこのような患者は発症後時間が経っており、感染そのものよりも免疫の暴走と呼ばれる現象が起きているので、他の人への感染力は弱くなっていることが多いとも言えます。無症状はもちろん軽症でも入院は不要で、悪化したときに迅速に医療機関に掛かる体制づくりは、もともとは整備されていたはずです。そうすることで不幸な転機を取る人はいるでしょうが、そうしないことで起こる不幸が勝ると判断したら速やかに二類感染症に準じた扱いを中止すべきです。ロックダウンなどの厳しい措置は、感染を遅らせることはできても、収束させることはできません。この病気は長く続きます。過度に恐れず軽視もせず、地道に感染予防を行う人が増えれば、簡単に我々の社会は崩壊しないはずです。


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