Vol.202 90%有効な新型コロナワクチンへの疑問
11月9日に米国のファイザー社とドイツのビオンテック社が共同開発中の新型コロナワクチンが、第3相試験で90%以上の効果があり、重大な副作用はなかったと報道されました。複数の国で成人4万人以上をワクチン群とプラセボ(有効成分のない偽ワクチン)群に分け、2回目の接種から7日目以降にどれだけの人が発症したかを比較した研究です。今回は、発症者が94例の時点での中間解析結果で、おそらくワクチン群が8例程度、プラセボ群が86例程度発症したと思われます。90%という数字は、インフルエンザワクチンの有効性50〜60%はもちろん、WHOが目指している新型コロナワクチンの目標である「少なくとも70%」をも大きく上回っています。
90%は効果絶大という印象ですが、実際に利益を得る人は感染率により大きく変わります。今回のワクチンを打った約2万人で病気にならずに済んだ人は、78人(86-8)と考えられます。つまり利益を得る人は250人に1人程度です。もし感染者がどちらの群も100倍になったとすると、8600人と800人になり、利益を得る人は7800人、つまり2.5人に1人です。このように感染率の高低によって効果は大きく異なります。今回の治験は、米国・ドイツ・ブラジルなど感染者の多い国で行われているので、東アジアで行った場合に利益を得る人は1000人に1人以下と考えてよいでしょう。また、このワクチンで抗体がどれくらい維持できるかは不明です。今回は初回接種から3ヶ月以内という短期間の結果であり、時間とともに抗体価が下がれば接種者の発症が増え、有効率も下がるかもしれません。さらに、今回の発表では発症者の重症度は不明で、重症化や死亡を防げるかはもちろん、重症化しやすい人への効果も今のところわかりません。
短期的には重大な副作用はないようですが、このワクチンはRNAワクチンという新種のものなので、未知の副作用や、長期的な影響は不明です。例えば「抗体依存性感染増強」という、本来ウイルスから身体を守るはずの抗体が、免疫細胞などへウイルスの感染を促し、免疫細胞が暴走し症状を悪化させてしまう現象がありますが、これがコロナウイルス由来の重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)に対するワクチンが実用化されなかった原因の一つと考えられています。また、コロナウイルスと同じ一本鎖RNAウイルスであるデング熱ではこの現象によりワクチン接種が中止されました。これは接種後年月が経ってから感染した場合でも起こることがあり、注意が必要です。副作用はクリアできたとは考えないほうがよいでしょう。
今回のワクチン1億2000万回分(6000万人分)が、来年6月までに日本へ供給される予定です。ただ、このワクチンは-60℃から-80℃程度の超低温で管理する必要があり、普通の冷凍車では無理で、これほどの低温環境を維持できる設備はほとんどの医療機関にはありません。かなりの設備投資が輸送にも保管にも必要になります。ワクチンのコストもさることながら、発展途上国への十分な供給は不可能と言ってよいでしょう。
新型コロナは、有効なワクチンにより短期的に終息する可能性は低く、ゆっくりと付き合う病気だと思います。重症者や死者が少ない我が国が、安全性に目をつぶって手を出す必要があるでしょうか。偏屈者の私は、ファイザー社の株価が急騰した際に、同社の最高経営責任者(CEO)が、保有する自社株の60%を売却し、約6億円を手にしたという記事が気になります。さらに11月16日には米国のモデルナ社が、超低温での保存が不要な同様のワクチンを開発し、有効率が94.5%だったと発表しました。やはり株価は高騰し、同社のCEOは50万株を売却しています。今が最も利益になるタイミングと判断したというのは下衆の勘繰りでしょうか。