新庄徳洲会病院

menu

<

掲載日付:2020.09.10

Vol.198 いつまでも未知のウイルスではない

 9月4日に加藤厚労相は、今後予想される新型コロナとインフルエンザ(以下インフル)の同時流行に備えて、従来の方法から、かかりつけ医や地域の医療機関に電話で相談する体制に変更すると発表しました。インフルに加えて、新型コロナも抗原検査やPCR検査が一般の医療機関で受けられるようにすることで、保健所への負荷は軽減されますが、検査ができない、または行わないところは除外されるので、特定の医療機関に発熱患者が集中することが予想されます。

 新型のウイルスとは言え、半年以上経過し分かってきたことも少なくありません。PCR検査の陽性者は約7万人になりましたが、1シーズンに1000万人程度が発症するインフルと比べると感染力は弱そうです。死亡率は、関連死亡1万人程度のインフルが0.1%程度であるのに対して、新型コロナは、死者1300人余りで2%弱ですが、実際に感染した人はこの10倍以上と考えると0.2%くらい、発症者でみると3〜4%となり、いずれにせよ新型コロナのほうが高そうです。ただ、初期に比べると全体でも、高齢者に限っても、死亡率はかなり低下しています。

 世界レベルでは、インフルの死者数は年間25−50万人ですが、新型コロナはすでに80万人を超えています。高齢化率世界一ということを考えると、我が国は非常に少ないと言えます。その理由はよくわかっていませんが、東アジア全体に死亡が少なくかつ抗体保有率が低いことを考えると、遺伝的な要因と抗体に依存しない何らかの免疫が働いているのではないかと思います。死者が急増した地域では、感染の拡大とともに医療崩壊が起こりました。イタリアでは緊縮財政による医療制度の縮小が、ニューヨークでは医療保険のない集団に流行したことが大きな要因だったようです。スペインやスウェーデンでは、高齢者施設の集団生活をしている外国人労働者に流行したために、施設の維持管理ができなくなったことが大きく影響しました。幸い我が国では重症者数も医療体制を崩壊させるまでには至らず、高齢者施設での集団感染も限定的でした。

 世界的に見ても、発症者も死者も少ない我が国は独自の対応も検討してよいのではないでしょうか。6〜8月の死者は81→37→285と減少から増加に転じ、二度目の波が来たと言えますが、4月より波は小さく、8月後半がピークのようです。今後も波はやってくると思いますが、医療崩壊さえ起こさなければ、被害は最小限にできます。そのためには、まず無症状者や軽症者に医療機関が振り回わされないようにすることです。検査体制が整ったためか、PCR検査件数は増えましたが、今後も無症状の濃厚接触者に検査をするメリットがデメリットを上回っているとは思えません。8月に発表された中国の研究では、重症度が高い患者ほど濃厚接触者への感染を起こしやすく、無症状が感染させる確率は0.3%でした。感染の場は80%以上が家庭で、医療機関は5%程度です。とすると、「軽症・無症状は原則としてまず家庭で経過を見て、症状が悪化する場合は医療機関を受診する」という方針にするだけでも、医療機関の負荷は軽減されます。次に、感染が起こるのが発症後数日までが圧倒的であることを考えると、入院して1週間もすれば感染力はかなり低くなっていることが予想されます。そのような患者に対しては、防護服や特殊なマスクを付けた厳密な感染予防対策も不要かもしれません。要するにインフルの対応に近づけるようにするということです。もちろん、感染の危険はゼロではなく、院内感染により医療従事者が死亡することがあるかもしれません。現場で診てきた医療従事者からは暴論と言われるでしょうが、社会防衛上は一つの選択肢ではないでしょうか。私は感染者を診たことがありませんが、その覚悟はあります。新型コロナを二類感染症から外し、インフルと同じように扱い、中等症以上の患者は特定の病院に入院させるようにするという戦略は悪くないように思います。


menu close

スマートフォン用メニュー