新庄徳洲会病院

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掲載日付:2020.04.15

Vol.180 医療崩壊を防ぐために大事なことは?

 新型コロナウイルス感染症の人口100万人当たりの死亡者数の経時的変化を国別にグラフ化したものが、札幌医科大学医学部附属フロンティア医学研究所ゲノム医科学部門から公開されています。これを見ると、先行した中国を韓国とイタリアが同じペースで抜き去っていくのですが、その後もイタリアが上昇する一方で、韓国は徐々に緩やかなカーブを描きます。この差はどこから来るのでしょうか。両国の大きな違いは高齢化率(人口に占める65歳以上の人口比率)です。イタリアは日本に次ぐ世界第2位で22.8%、一方韓国は14.4%です。中国での新型コロナの死亡率が、若年では1%未満であるのに対して、80歳以上高齢者では15%くらいになることからも、高齢化率はかなり影響しそうです。

 ところがイタリアより1週間遅れて感染が拡大したドイツも、世界6位の21.5%ですが、人口あたりの死亡数はイタリアの1/10以下です。PCR検査の100万人あたりの実施数は、イタリアもドイツも11000件以上で、イタリアのほうが多く行っていることから関係なさそうです。医療の供給体制はどうでしょうか。イタリアは緊縮財政の影響で、病院・医師・看護師が慢性的に不足していたところに、大量の患者が出たため、医療の需要と供給のバランスが崩れてしまったようです。これはイタリアに続いて感染が拡大し、今では人口あたりの死亡者数がイタリアをも抜き去ったスペインも同様です。重症患者を治療する集中治療室(ICU)のベッド数を見ても、イタリアが人口10万人あたり12床であるのに対して、ドイツでは30床あります。やはり医療の供給体制は大きな要因のようです。

 高齢化率27.8%で世界1位の日本はどうでしょうか。西ヨーロッパや米国の増加速度に比べて、韓国や中国などアジア諸国は遅いのですが、日本の死亡者数は、非常に(異常に?)少なく、増加速度も中国や韓国よりさらに遅いのです。ただ、両国がピークを過ぎたのに対して、ダラダラと増え続けています。その理由は専門家も分からないようです。常識的には爆発的に増えることはなさそうですが、油断はできません。

 「医療崩壊」を防ぐためには、供給体制を整えることと需要を減らすことが重要です。我が国のICUのベッド数は人口10万人あたり5床とドイツの1/6ですが、これを急に増やすことは難しいでしょう。ただ、人口1000人あたりの急性期病床数はドイツ6.0に対して、日本は7.8です。今ある病床をうまく使い回すことで対応は可能ではないでしょうか。人工呼吸や人工肺などの医療機器の増産も叫ばれていますが、時間がかかるでしょう。医療従事者を増やすことはもっと時間を要します。つまり供給を増やすことには限界がありそうです。

 では需要を減らすのはどうでしょうか。韓国はいち早く軽症者を病院から出すことで、需要を抑えたと言われています。我が国でも遅まきながら無症状者や軽症者を病院から出す動きが始まりましたが、いずれ自宅での経過観察も選択肢に入るはずです。その際には、家庭内での高齢者への感染を防ぐことが重要です。ただ、日本で死者が爆発的に増えるのは、介護施設に感染が広がった場合ではないかと思います。実際、イタリアやスペインでの死者の1/5〜1/4が介護施設の入所者と言われています。病院も、高齢者や基礎疾患のある人が多いので注意を要しますが、感染予防対策が確立され、スタッフの知識や技術も高いことが多いので、介護施設のほうがリスクが高いような気がします。介護施設の職員が感染を持ち込まない努力をすることは当然ですが、感染が起こった時の対応がキーポイントのような気がします。


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