新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.02.03

Vol.208 看護師が戦線離脱しないためにはお金よりも…

 民間病院の受け入れが悪いことが医療崩壊の原因と言われていますが、大事なことは、大規模病院から診療所までの各医療機関が役割を分担して、できる範囲のことを最大限に行うことだと思います。現状は、一部の病院に負担が集中し、その病院の一部の職員が疲弊してしまっています。緊急事態であれば、医療従事者はそれを自覚し負担を分け合う覚悟を持たねばなりません。それが専門職の誇りです。そのためにも行政は一日も早く二類感染症相当を解除し、多くの医療機関がこの病気に関われるようにすべきだと思いますが、緊急事態宣言を支持する国民が90%近い現状では、インフルエンザと同様の五類感染症にする決断ができる政治家がいるとは思えません。逆に現国会で特別措置法や感染症法が政府の意向通りに改正されると、さらに厳しい扱いを受け、早くてもワクチンの普及後になるのではないかと危惧します。

 医療機関や医療従事者へ経済的援助を増やせば、引き受け病院が増えるという意見もありますが、現行の援助がさほど貧弱だとは思えません。私の病院のような後方支援病院にも、それなりに支援されていますが、中にはCT撮影装置付きの専用病棟を造って診療報酬まで保証されている病院もあり、経営難の医療機関がある一方で、潤っているところもあります。「新型コロナでは医療機関は潰さない」という姿勢を政府が示した上で、厳しい環境に従事する者へ報奨金を支給すべきです。医療従事者の多くは病める人の役に立ちたい気持ちを持っているのです。

 医療従事者でも特別に大変な思いをしているのは看護師です。医者の仕事は、頭脳労働が多く、患者と距離を保つこともある程度は可能で、業務もかなりマニュアル化されていますが、看護師は患者と密接する機会が多いので感染のリスクは大きく、特に今回の騒動では、本来は外注の業者や看護助手がすることが多い清掃・ごみ処理や食事介助やベッドメーキングなども行っているのが実情のようです。本来の業務も専門性の高い頭脳労働と単純な肉体労働が複雑に絡み合っており、厳重な感染予防対策をしながら業務を遂行することは肉体的にも精神的にも大変なことです。また、看護師の仕事の多くは、「医師の指示」によるもので、自ら考えて行動することは多くありません。いわば他人に命令されて動く事が多いので、疲れやすくストレスも溜まります。某テレビ番組で、都内のある大学病院に入院してきたホストたちが昼は病院食を取らずに寝ていて、夜になって「腹が減った」と、感染者は外出できないので看護師に買いに行かせたという話が紹介されていたそうです。これが本当であれば、看護師としての誇りはズタズタになるのではないでしょうか。現場で働く看護師にいくら報奨金を出しても、モチベーションは保てないでしょう。離職したくなるのは当然です。看護師は、患者やその家族に尽くすだけのホストでもホステスでもありません。不特定多数の医療者に拍手をしたり手紙を書くよりも、目の前の看護師に敬意を払い、感謝の言葉を述べるほうが何百倍も価値があることを医療を受ける人達にはわかってほしいのです。社会全体が看護師を尊重する風土を養わねばなりません。

 看護師に限らず専門職が誇りを維持するためには、「経済的な保証がある」ことはもちろんですが、それ以上に「自分の能力を発揮でき」、「自分が社会に必要とされていると感じられ」、「自分にある程度の決定権がある」ことが大きなものだと考えます。医療者が覚悟を持って仕事に臨むのは当然ですが、それを支えているのは医療を受ける側なのです。昨年末に「緊急事態」と言いながら国会が閉会し、「医療緊急事態」を訴え国民に自粛を求めながら多くの医療機関が休診するのはおかしいと思いますが、同じように医療に負担をかけているという自覚のない国民が一定の割合以上になると医療など簡単に崩壊してしまいます。


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