新庄徳洲会病院

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掲載日付:2020.10.01

Vol.199 「死因」から新型コロナを考える

 死亡診断書には必ず医師が死因を書きます。長い間わが国の死因は、①癌などの悪性腫瘍、②心筋梗塞などの心疾患、③脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患が三大疾患として上位を占めていました。そこに肺炎が加わり、さらに近年急速に増加しているのが「老衰」です。その増加率は悪性腫瘍を凌ぐ勢いですが、病気らしい病気もせずに死ぬ高齢者が増えたのでしょうか。私は十数年前まで死因に「老衰」と書いた記憶はありません。昔は「老衰」と書くことは病態を考えない素人の表現だという風潮があったように思います。その一方でやたらと「急性心不全」は使われていました。実は死因というのは医学的に厳密なものではなく、意外に曖昧なものなのです。高齢になるほど持病が増えます。たとえば、脳梗塞で寝たきりになり、食事が取れなくなり経管栄養を受け、誤嚥性肺炎を繰り返し、徐々に衰弱し死亡した場合には、死因は幾通りかに分かれる可能性があります。その患者にとって何が重きをなしたかは医師によって異なり、「脳梗塞」「肺炎」「老衰」などと記載されます。また、衰弱した超高齢者には、癌の有無など詳細な病態を調べることに家族が消極的で、医学的にも意味がない場合が珍しくありません。このようなときにも「老衰」は使われます。「老衰」の急増にはこのような背景があると思います。

 新型コロナの死者は我が国では1500人を超えましたが、これは正確には新型コロナウイルス感染症関連死亡と呼ぶべきものです。つまり新型コロナが直接死因の人だけでなく、感染後に様々な合併症を起こしたために死亡した人も多くいるのです。死亡者の多くが70歳以上の高齢者または基礎疾患を持っているということは、もともと余命が短い人が新型コロナをきっかけに状態が悪くなり、死に至ったという人が少なくないはずです。来春までの数字を見ないと、インフルエンザとどちらが危険な病気かは判断できませんが、インフルエンザ関連死亡は年間約1万人です。新型コロナによる死亡者は、冬には再び多くなると思いますが、1万人を超えなければあまり大騒ぎする病気とは言えないような気がします。

 世界規模で見ると、新型コロナは検査陽性者が3000万人を、死者も100万人を超えました。決して軽い病気とは言いませんが、我が国では幸いにも死者も重症者も非常に低いレベルを維持しています。年間の死亡者を他の死因と比較してみましょう。結核は世界で1000万人が感染し、160万人が死亡します。我が国でも1.5万人以上が罹患し、2300人が亡くなっています。エイズでは世界で170万人が感染し、77万人が死亡しています。マラリアの感染者は2.2億人、死亡者は40万人以上です。交通事故の死亡者は世界では135万人、我が国では3200人以上です。我々はこの程度のリクスを受け入れて社会生活を営んできました。インフルエンザ関連死亡が1万人を超えても、屋外で無症状者がマスクをつけていないことで口汚く批判されることはありませんし、流行していない地域の学校が休校することもありません。交通事故が怖いから外出しないという人もいません。入浴中に死亡する人は交通事故の3倍以上と推定されていますが、それを恐れて風呂に入らない人もいません。もしも新型コロナが欧米先進国では流行せず、アジアやアフリカだけで流行していたら、同じくらいの被害であってもこれほどの騒ぎになったでしょうか。

 新型コロナをウイルスとの戦争と表現する専門家もいますが、ヒトが撲滅したウイルスは天然痘だけです。一方、我々の遺伝子の約半分はウイルス由来と言われており、哺乳類が出現したのもウイルスのおかげです。とすると我々が目指すのは穏やかにウイルスと共存するしかないと思います。戦争では多くの若者が命を落とします。幸い今回のウイルスは若者の生命を奪うことは極めて稀です。ウイルスと人間のどちらがたちが悪いかは明らかではないでしょうか。


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