Vol.249 マスクと熱中症発生にエビデンスは必要か
6月に入って、学校で児童生徒が運動中に熱中症になり、救急搬送されたという報道が増えました。中には重症者もいるようで、マスクを付けていたことが関係しているのではないかという意見もあります。実際、かなりの児童生徒はマスクを着用していたようです。学校側は着用しなくてもよいと指導しているが、児童生徒の意志なので外すことを強制できないという見解のようです。都内在住のユーチューバーが近くの中学校で行われている運動会で、生徒のマスク着用率がほぼ100%だったため、学校に問い合わせたところ、外すように指導しても生徒が不安で外さないと回答したという動画をアップしていました。
世界保健機関(WHO)は運動中のマスクは禁止すべきという立場です。6月段階での政府のマスクに対する公式見解は、「特に屋外での、他者と身体的距離が確保されているような場面、あるいは身体的距離が確保できなくても会話をほとんど行わない場面では、マスクの着用の必要がない」というもので、特に体育の授業では必要ないとしています。しかし現実には、未だに多くの児童生徒が着用して運動しています。学校関係者は自分は指示どおりにやっているので責任はないということなのでしょう。確かに、生徒の意志を無視してマスクを外させて陽性になったら、保護者から批判されることは十分に考えられます。不都合な事態に対して、「自分には責任はない」ということを最優先する感覚が社会に蔓延しているようです。取り返しがつかない事態では、本当の意味で責任を取ることなどできません。だからこそなおさら、多くの人が責任を引き受ける社会のほうが住みごこちはよいはずです。
ある救急専門医が自らのブログで、マスクと熱中症のリスクについて、①マスクはそこまで熱中症リスクを高めないのではないか、②感染リスクを考えて、マスクが必要なら着用し、不要なら外したらよい、③感染リスクが低そうな環境で、暑くて不快ならマスクを外したらよいのではと述べています。彼が言うように、マスクをつけて運動すると、心拍数・呼吸数・血中二酸化炭素濃度が上昇しますが、マスクと熱中症に関してはエビデンスは乏しいと思います。質の高いエビデンスを得るためには、大規模校で、白組にはマスク、紅組にはマスクなしで、運動会をして、熱中症の発生頻度を比較する実験が最低でも必要と思いますが、そこまでしてエビデンスを得るメリットはあるのでしょうか。もともとマスクを着用する習慣がない欧米では、このような研究は行われていないでしょうし、リスクを考えると我が国でも試みるべきではないと思います。現在の感染率と重症化率を考えると、運動時のマスク着用は論外だと思います。
子供がマスクを着用し続けることから言語や精神の発達に悪影響が出る可能性も、エビデンスを得るためには大規模な調査を長期間続けなければなりませんが、その結果、悪影響ありとなったときには取り返しが付きません。有益な研究でもリスクが大きければ、質の高いエビデンスは求めないほうがよいのです。コロナ騒動が始まってから、「私は、思いつきや自分の経験ではなく、エビデンスに基づいて発言をしている」と言う人が増えました。専門家はエビデンスにこだわって議論してもよいのでしょうが、政治家は実務者であり、利益と不利益を比較して決定するのが仕事です。その意味では、学校でのマスク着用は、例外を提示して、原則としてすべて禁止すべきです。当然、より熱中症になりやすい高齢者が自宅内で着用することも同様です。かつてマスクを半ば強制したのと同等の圧力をかけるのが政治家やマスコミの責任ではないでしょうか。首相は一刻も早くコロナ収束宣言を出し、マスクを付ける特別な条件を提示し、それ以外は外すように呼びかけないと、従順で同調圧力に弱い我々の行動は変わりそうにありません。