新庄徳洲会病院

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掲載日付:2011.05.15

Vol.59 原発問題はなぜ分かりにくいか

 今回の事故で明らかなのは、解決まで長期間を要することと、事故現場以外では急激に健康を害するような被爆は今のところないことくらいです。この問題が分かりにくい理由は、3つあるように思います。

①情報が信頼できない
 事故直後の東京電力や政府の発表は、意図的かどうかは別にして不正確でした。そのため、「公式発表は信用できない」という雰囲気ができてしまい、何を基にして考えたらいいのかが分からなくなりました。

②専門性が高い
 放射性物質の特性や原子力発電の構造は、高校の理科を履修しただけで簡単に理解できません。ベクレルとシーベルトの違いを理解していないメディア関係者は少なくないと思います。つまり、ある程度の知識があり、なおかつ時間と労力を惜しまないことが理解の必要条件なのです。

③初めから政治問題化した
 これが一番重要だと思うのですが、原発問題は初めから政治問題化してしまったので、誰もが自分の立場でしかものを言いません。政府・企業・政治家・官僚は、自己の利益を最大化し不利益を最小化するように振る舞います。また、メディアは「非常に危険」と「大丈夫」という両極端に分かれます。テレビは地上波ほど安全性を、BSやCSは危険性を強調しています。週刊誌の論調はライバル誌と逆になっているのは、そうしないと売り上げが伸びないからとしか思えません。専門家も、政府の諮問機関に所属したり、研究費を国や企業からもらっていると、その立場からでしか発言できません。原発反対派は、事故が大きくなるほど自己の正当性が高まるので、危険性を煽ります。「議論」は、相手を打ち負かして自説の正当性を示すということになってしまい、協同してあるべき姿を追求するものでなくなっています。

 さて、このような状況では、我々はどのように考えるのでしょうか。最も多いのは、直感的に結論を出して、理由は後からつけるというやり方です。「人は信じたいことを信じる」ということです。もう一つは、メディアの中で信用できそうな人についていくというやり方です。冷静に我々が目指すべきなのは、自分が何を分かって何を分かっていないのかをはっきりさせ、分からないことは調べて考えてみることです。しかし、微量の被爆を長期間受けたときにどれほど癌になるのかという問題のように、結局は誰も分からないものも少なくありません。やはり、難しいのですね。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第669号 平成23年5月15日(日) 掲載


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