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掲載日付:2021.06.01

Vol.217 五輪と緊急事態宣言

 前回話題にした高橋洋一氏が、我が国の緊急事態宣言の強制力のなさを「屁みたい」とツイッターで述べたことに批判が集まり内閣官房参与を辞職しました。表現は下品ですが、我が国が非常時に私権の制限ができない例外的な国家であり、それを踏まえて憲法改正を含めた法整備を議論すべきであるという主張は正論です。政治家もマスコミも国民も議論は避け、彼の辞職で幕引きになりました。彼が示したグラフからは、我が国の緊急事態宣言には、他国に比べて強制力が弱いことは明らかです。自粛要請の矛先を、屋形船やパチンコ屋から飲食業などの政治力のない業種に向け、国民に「やっている感」を見せているだけです。その効果は甚だ怪しく、国民も否定的な評価を下しながら、更に延長すべきというのが多数であることは理解できませんが、希望通り?に緊急事態宣言は延長されました。行動制限は短期間に厳しくやることが原則で、なまぬるい処置をダラダラ続けるのは有害無益です。私は今回の感染症に対しては強力な行動制限は不要と考えていますが、このような議論は緊急事態になる前にすべきことだとは思います。

 今年はサッカーの欧州と南米の選手権が、前者は欧州12カ国の都市で24カ国が、後者はアルゼンチンとコロンビアで10カ国が参加して、約1ヶ月にわたって開かれます。アルゼンチンは、現在G20の中で陽性者数も死者も最多の国ですが、両大会とも有観客で行われる予定です。五輪の入国者は約10万人弱と予想され、感染対策はより大変かもしれません。国民の過半数が開催に反対していますが、開催の道を考えてみます。厚労省の発表によると4月の入国者数は47352人で、そのうち37%が外国人です。選手以外の役員や報道関係者はもちろんのこと、五輪関係者以外の入国も厳しく制限し、競技終了後に速やかに出国させると、人的負荷はかなり軽減され、開閉会式も簡素化でき、本来の東京開催が目指した簡素な開催になります。また、希望する参加者には早急にワクチンを接種するのもよいでしょう。

 五輪開催のために一番重要なのは、PCR検査の陽性者を減らそうと緊急事態宣言を続けるより、患者が増加したときに医療崩壊を起こさないことです。現在は、陽性者の体調が悪くなっても、保健所に連絡しなければなりません。保健所の担当者が重症度を判定することは難しいはずです。彼らを過重労働から開放し、病人は保健所ではなく医療機関に相談し、新型コロナはもちろん発熱患者は診ないという医療機関をなくす対策を講じるべきです。患者の受け入れ体制を見直すことが、五輪開催の可能性を上げるだけでなく、新型コロナ対策の本質だと思います。

 私は五輪のような商業主義にまみれた巨大なスポーツイベントを嫌悪しています。赤字が続き立候補地がなくなりそうになった五輪は、1984年のロサンゼルス大会からテレビ放映料とスポンサーの協賛金を資金源とする営利優先に方針を大転換しました。熱中症のリスクが高い盛夏に行われるのも、巨大スポンサーである米国のテレビネットワークの都合によるところが大でしょう。今回の五輪は、開催しても中止しても「史上最悪」の汚名を着せられそうです。私は誘致には反対でしたが、医療体制を転換した上で、ほとんど被害のない未成年に無料開放して開催することを望みます。若者は1年半以上も自粛を強いられ、運動会や修学旅行などのイベントを奪われ、運動時にもマスクを強制させられてきました。一流選手を目の当たりにした彼らが、これからの人生に少しでも希望が持てるなら、世界から白い目で見られた上に巨額の赤字を被ることなど大した問題ではありません。ちなみに、スキージャンプ団体の金メダルに多くの日本人が熱狂した長野五輪開催年である1998年の1〜3月には、約50万人がインフルエンザを発症し、関連死者数も4000人を超えていますが、このときインフルエンザを心配した人はどれほどいたでしょう。


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