新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.01.28

Vol.207 ウイルス界の激変から考える

 新型コロナの広がりで人間界は大変なことになっていますが、ウイルスやその他の微生物の世界にはより大きな異変が起こっているようです。昨年1月初めからインフルエンザが激減していますが、厚生労働省の発表によると、全国に5000ヶ所ある定点での2020年8月31日から1月10日までの19週間の累積の患者数は、全国でわずかに664人でした。同期間における過去5年間の平均患者総数は約35.6万人なので、1/500にも満たないことになります。これは全国共通で、山形県の48ヶ所における同時期の報告数は0人です。このような激減現象はインフルエンザだけではなく、RSウイルス・手足口病・伝染性紅斑・流行性耳下腺炎・ヘルパンギーナ・小児の感染性腸炎などでも見られます。またインフルエンザほどではないですが、成人の感染性胃腸炎・水痘・咽頭結膜熱も大幅に減少しており、A群溶血性連鎖球菌咽頭炎やマイコプラズマなどのウイルス以外の病原微生物による感染症も減少しています。

 同じ感染経路を持つウイルスが同時に流行しにくいことは、「ウイルス干渉」として以前から知られていました。例えると、人に感染するためにウイルスは「椅子取りゲーム」をしているようなものなのです。その椅子を昨年から新型コロナウイルスが席巻して他のウイルスが流行できなくなっているということです。日本人の生活様式や新型コロナによる感染予防策の普及をその原因とする意見もありますが、新型コロナが騒がれる以前から見られていることを考えると、ウイルス干渉が主な理由であることは間違いないでしょう。今シーズンはインフルエンザのワクチン接種が推奨されていたため品切れになった後に外来に来た人には、「たぶん今シーズンは流行らないので一般的な予防をすればよいと思います」と説明しました。

 ウイルス疾患の変化が、都市でも地方でも同様に起こっているということは、ウイルス界の激変も日本の津々浦々で起こっているということです。とういことはPCR陽性者が少ない地域にも新型コロナウイルスは存在しているはずで、一部の専門家が唱えている「ゼロコロナ」を今さら目指せるとは思えません。ウイルスといかにうまく共存するかしかないと思います。確かに、流行は首都圏を始めとする人口密集地帯に起こっています。山形県の人口は東京都の1/10以下、人口密度は1/60で、PCR陽性者数は1/200、死亡者は1/55です。感染が少ないのは、人が少ないのでウイルスの絶対量が少ないことと、人口密度が低いのでウイルスと出会う頻度が少ないことが影響しているのでしょう。不特定多数の人と密に接することは感染を広げますが、全くウイルスと出会わないのがベストかどうかは分かりません。ロックダウンは短期的にしか行えず、解除後に感染が急拡大している国も少なくないだけでなく、免疫をよい状態に保つためには少量のウイルスと持続的に接する方がよいという意見もありますが、真偽は私には分かりません。

 多くのウイルスと出会わないことと同様に重要なのは、免疫力を高いレベルに保つことです。十分な睡眠や休養、バランスのよい食事、体力に応じた運動などの重要性はもっと強調すべきです。最近はウイルスの変異株の出現が話題になっていますが、変異は無作為にしばしば起こり、その結果ウイルスが死んでしまうこともあれば、感染力が強くなることもあります。毒性が変化することもありますが、劇的に強くなると人が死んだり動けなくなるので、感染力は低下することが多いと言われています。また、同じ変異が別の場所で同時に起こることもあり、今回の変異が英国から入ったということは証明できないでしょう。変異のことなどあれこれ思い悩んでも仕方ないのです。過度に病気を恐れ不安になることは免疫を低下させます。ワイドショーなど見ていないで、天気のよい日は外に出て日光を浴びて散歩でもしましょう。


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