新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.12.09

Vol.233 ゆく年は多死の年、くる年は?

 昨年は前年に比べて死者数が減少しました。それまでは10年連続で前年より3200〜56000人程度、10年で約18万人増加しましたが、昨年は一昨年に比べて8338人も減少しました。これは新型コロナで死者が増加している中で、世界的にも極めて異例のことでした。表現は悪いですが、今年は昨年死んでもおかしくない高齢者が増え、その反動で死者数が昨年より3〜4万人くらいは増えるのではないかと考えられていました。ところが予想を大きく上回りそうです。11月25日に厚生労働省から発表された人口動態速報によると、9月の死亡者数は115706人で、前年同月より8238人も多く、1月から9月までの累計で、すでに59810人も増えています。昨年10月から1年間の数字をその前の1年間と比べると、その差は更に開いて68506人になります。このままのペースが続けば、昨年より7万人程度増加する可能性があります。東日本大震災があった2011年は、前年より5万6千人以上増加したのですが、それを凌ぐ勢いです。

 9月末までの新型コロナの関連死亡者数は14000人余りで、前年に比べ4倍以上のペースで増えましたが、この増加を説明することはできません。死亡統計が出るのはまだ先の話ですが、日本総研の調査によると、今年の死者数の増加に最も寄与したのは「老衰」で、それに次ぐのが新型コロナです。新型コロナ以外の呼吸器疾患(肺炎など)は逆に減少しており、その他では「循環器疾患」の増加が目立ちます。正確な数字が出るのは来春になるでしょうが、今年は死者が増え過ぎた年になることは間違いなさそうです。東日本大震災のような大規模災害はなかったのですから、昨年末からの我々のコロナ対応の影響と考えるのが妥当です。

 新型コロナによる医療崩壊のために新型コロナ以外の病気で亡くなった人はいたでしょうが、それが数万人いるとは思えません。ワクチンの影響は何とも言えませんが、新型コロナ対策に伴う行動変容が最も大きな要因でしょう。人の動きが減り、経済が停滞し、肉体的にも精神的にも高齢者の衰弱が早まった可能性が高いと思います。肉体の衰えは、循環器系の機能を落とし、骨折を増加させ、老化を早めます。認知症は、進行すると食事ができなくなり死に至る病です。ステイホームがもたらした弊害は、効果を大きく上回った可能性があります。私は、新型コロナから受けた社会の影響を、「コロナ騒動」と呼んできましたが、その理由は医学的な重大性より遥かに大きな影響を社会に及ぼしていると思えるからです。

 毒性不明のオミクロン株の出現をマスコミは待ってましたとばかりに騒ぎ立てています。第5波の中心となったデルタ株は、感染力が非常に強かった割に、被害の大きかった大阪府のデータでも、死亡率は1/10以下、重症化率は1/3以下になっています。これをワクチンだけのおかげと考えるのは接種のタイミングからは無理があります。病原ウイルスは、感染力が強く、毒性が弱くなる変異を遂げたものが生き残りやすいことは、これまでも言われており、この変化は極めて自然です。被害が大きくなったのは医療体制の整備が遅れたからです。ということはオミクロン株も、感染力は強くなる可能性がある一方で、毒性は免疫状態の違いに左右されるので一概には言えませんが、日本人にとって更に弱くなる可能性は十分にあります。人間が余計なことをするほうが複雑な変異を引き起こすのではないかとさえ危惧します。実際に、オーストラリアの首席医務官は、オミクロン株が他の株と比べて致死性が高いことを示す証拠はなく、実際はその反対かもしれないとの認識を示し、多くの国で300を超える感染例が診断されているが、全てが非常に軽症か無症状だったと述べています。年明けには2類感染症の見直しの時期が来ます。一刻も早く新型コロナを通常の感染症とすることが、余分な死者を増やさない第一歩だと思います。


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