新庄徳洲会病院

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掲載日付:2024.10.02

Vol.286 アッパレ!チームK

 9月18日に方丈社から「私たちは売りたくない! “危ないワクチン”販売を命じられた製薬会社現役社員の慟哭」が出版されました。これは、Meiji Seikaファルマ(以下明治)の有志が、自社からも発売されるmRNAワクチンに対する思いを、熱い気持ちで、しかし「一般公開された情報」に基づいて冷静に著したものです。メンバーの多くは明治の医薬情報担当者(MR)で、医療機関を訪問し、自社医薬品の情報を提供したり、医療関係者から情報を収集したりする役割を担っています。明治は、古くはペニシリンGやストレプトマイシンから、近年では耐性菌の代表であるMRSAに対する基準薬であるバンコマイシンなどの抗菌薬を提供しているだけでなく、インフルエンザワクチンの製造販売では国内の最大のシェアを占めています。

 ワクチンの製造販売を行っている企業の社員が、自社でも取り扱うことになったワクチンについてこのように踏み込んだ内容の本を著したことに驚きましたが、売れ行きも凄まじく、発売2日目にはアマゾンでは売り切れになると同時に、多くの高評価が寄せられています。きっかけとなったのは、26歳の同僚社員である影山晃大(かげやまこうだい)さんが、ファイザー社製のmRNAワクチン接種の3日後に急性心不全で突然死したことです。大きな衝撃を受けながら、その死を無駄にしてはいけないと集まった有志が家族とも相談して、「晃大」の頭文字をとってチームKとして著し、出版に至りました。彼は元気いっぱいのスポーツマンで、トップクラスの営業マンでもありました。その死から1.5年後に、「予防接種健康被害救済制度」で認定されました。ある意味、自社に弓を引く行為であり、匿名とはいえ、その気になれば関係者は明らかになるでしょう。解雇されることはなくても、今後の待遇に影響する可能性は十分にあります。正直言って、私が彼らの立場であったとしたら、このような行動に加わるという確信は持てません。

 彼らの主張は、①mRNAワクチンがあまりに速く承認され広く用いられたこと、②その有効性が恣意的に高評価されたこと、③その副作用がほとんど検証されていないこと、④これまでなら一旦中止されるような副作用があったにも関わらず定期接種になったことです。これは私が当初から訴えていたことと同じです。それに加えて、⑤新型のmRNAワクチンが自社から発売され、その営業活動をしなければならないことへの葛藤があります。文章は平易で、内容は専門的知識がない人でもわかりやすく良書と言えます。さらに今後のワクチンが進んでいく方向にも触れています。第一三共は、2020年にインフルエンザワクチンの販売を終了すると発表しました。その一方で、今回の新型コロナワクチンの定期接種で用いられるmRNAワクチンには、国内で初めて開発されたものが第一三共から発売されます。さらに不活化ワクチンは発売から撤退しましたが、mRNAワクチンとしてインフルエンザワクチンを発売する予定で、早ければ来シーズンから用いられます。さらに対象者が重複するので、接種が1回で済む利点を強調し、新型コロナと季節性インフルエンザの混合ワクチンも2年後には用いられるかもしれません。

 巷では、明治から販売される予定の新しいmRNAワクチンであるレプリコンが騒がれています。この本でも強調していますが、レプリコンには未知の危険性はありますが、そもそも従来のmRNAワクチンに危険性があるのです。今後、様々な疾患に対するワクチンには、次々にmRNAワクチンが採用される可能性が高いと思います。インフルエンザワクチンがmRNAに変わったら私は接種しません。今回のチームKの行動は、幕末の志士に影響を与えた吉田松陰が黒船への乗船に失敗して囚われの身となって江戸へ送られるときに詠んだ、「かくすれば、かくなるものと知りながら、やむにやまれぬ大和魂」を思い出させます。

掲載日付:2024.09.20

Vol.285 どうする? 今秋のコロナワクチン

 10月1日から新型コロナワクチンの定期接種が始まります。接種日に65歳以上、または、60歳以上で基礎疾患や免疫機能に障害のある人が対象で、国と自治体から補助金が出ます。自己負担額は、ゼロから全額まで自治体による差が大きいですが、概ね2〜4千円程度になりそうです。対象外で希望する人は任意接種となり、全額の1万5千円程度が自己負担になります。種類は、従来のmRNAワクチン(ファイザー、モデルナ、第一三共)と「レプリコン」と呼ばれる新型のmRNAワクチン(明治製菓ファルマ)とスパイクタンパク質を合成した組み換えタンパクワクチン(武田薬品)で、約3200万回分(約80%が従来のmRNAワクチン)が供給される予定です。

 一般にワクチンを接種すべきか否かは、①その病気の重篤度、②ワクチンの効果、③ワクチンの副作用の頻度と程度の3つを比較した上で、経済合理性があれば行うものだと思います。例えば天然痘は感染力が強く死亡率も20〜50%と非常に高く、ワクチンの有効性が高いので、予防接種健康被害救済制度による死亡一時金支払い件数が42件と副作用が強いけれども定期接種となり、撲滅されました。また、インフルエンザは小児の死亡例があり、ワクチンの予防効果は30〜60%と高いとは言えませんが、安全性が高いので、国民の約10%、高齢者の約25%が受けています。2022年の段階で、新型コロナの重症化率と死亡率は、全年代で季節性インフルエンザと同等もしくはそれ以下で、ワクチンの感染予防効果もほぼないと厚生労働省も認めています。重症予防効果があるので対象者を限定して定期接種になりましたが、その効果の検証は不十分で透明性も欠きます。最大の問題は、ワクチンの副作用の評価がされていないということです。厚労省が先日発表したデータでは、死亡一時金が支払われる件数は800人を超えました。これは我が国で行われたすべてのワクチンによる件数の150件を大きく上回っています。しかもそのうち200人以上が突然死です。この事実だけでもこのワクチンはいったん立ち止まるべきです。コロナ騒動初期に私も懸念していた抗体依存性感染増強は、その抗体も証明され、接種者のほうが感染しやすいのではという疑いも消えません。循環器系や免疫系への影響も取り沙汰されています。

 新しいタイプのmRNAワクチンであるレプリコンは、mRNAが体内で自己増殖するので、注入するmRNAの量が少量で済み、生産効率も優れ、抗体産生効果が長続きするという利点があります。米国で開発され、ベトナムで約1万6千人を対象とした治験が行われ、従来のワクチンと同等の効果と副反応を認めました。我が国では約9百人を対象にした治験で、抗体の持続効果を認め、世界で初めて承認されました。今回の定期接種で用いられるかどうかは未定ですが、副作用も従来型と同等と考えたほうがよいでしょう。レプリコンを接種した人から、ウイルスのようにmRNAが未接種者に伝染するという説(シェディング)もあり、レプリコンを接種した人の立ち入りを断ると表明している医療機関もありますが、さすがにこれは行き過ぎです。残る蛋白組み換えワクチンはこれまで用いられてきた技術で安全性は高いかもしれませんが、新型コロナの人体への影響の少なさを考えると、すべての年代で接種するメリットは、デメリットを超えないと思います。

 私の周りでも新型コロナは、「普通の風邪」という印象です。高齢者が多い病院ですが、直接死因になった患者さんは、オミクロン以降はいないと思います。そのような病気に人類史上初めて用いるmRNAワクチンをこれほど前のめりになって使い続ける意味がわかりません。私は定期接種の対象ですが受けません。病院としても接種を標榜する医療機関としては手を挙げないことにしました。患者さんから相談されたときには、「お勧めしませんが、コロナで死ぬときに受けておいたらよかったと後悔したくないなら受けるしかありません。」と答えています。

掲載日付:2024.08.17

Vol.284 スポーツにおける性別問題

 パリ五輪の女子ボクシングで、性別疑惑の二選手が金メダルを獲得しました。当初は生物学的には男性で性自認が女性であるいわゆるトランスジェンダー女性と、その後は外性器は生まれながらに女性であるにもかかわらずY染色体を有する性分化疾患の一種であるアンドロゲン不応症(男性ホルモンに対する反応が先天的な病気)と言われていますが真偽は不明です。国際ボクシング協会(IBA)が過去2回行った性別検査で、Y染色体の存在とテストステロンという男性ホルモンが高い値を示したことから、世界選手権に参加できなくなりました。外性器の確認は行われていません。国際オリンピック委員会(IOC)とIBAは、政治的背景により対立しており、今回の五輪では、パスポートで女性とされているというIOCの判断で参加が認められました。

 過去10年で急速に増えているトランスジェンダーは、若年の生物学的女性が性自認が男性と主張することが圧倒的多数でしたが、スポーツ界では、男性的な身体的特徴を持つ人が女性と称して女子スポーツに出場することが問題になっています。本来の女性がスポーツ界から排除されるだけでなく、身体接触を伴う競技では安全性が損なわれる懸念もあります。今回はボクシングという格闘技で、実際にパンチを二発受けた時点で危険を感じて棄権した選手もいました。

 女子スポーツにおける性別問題は昔からあり、1964年の東京五輪で共産圏からの選手に疑惑が持たれたことがきっかけになり、性別検査が行われるようになりました。当初は女性選手が全裸で医師団の前を歩かされることもあったようですが、68年のメキシコ五輪からは口腔粘膜から採取した細胞でY染色体の有無を調べるようになりました。しかし、このやり方も人権侵害として96年のアトランタ五輪が最後になりました。その後、南アフリカの陸上競技選手が女子としては速すぎることから男性ではないかと疑われたことから、男性ホルモンであるテストステロンを測定し、それが高いと女子としては参加はできないという方法で再開されました。

 この選手は、テストステロン値が高く、精巣があると報じられており、これが事実であれば、アンドロゲン不応症の可能性が高いと考えられます。この疾患にはホルモン感受性の違いによって様々な種類があり、陰茎がある人から外性器はほぼ女性で膣がある人までいます。この選手は女性と同姓婚していますが、中には男性と結婚している人もいます。今回のアルジェリアの選手も同様の可能性がありますが、詳しい検査をしないと結論は出ません。出たとしてもこれは個人情報であり本人が公表しない限り知ることはできません。近年流行りのトランスジェンダー女性は、ホルモン治療を受けテストステロン値が低くなるので、女子スポーツに出場させるべきだという声が強い一方で、厳しい制約を課すべきだという声もあります。

 ヒトの基本はメスであり、Y染色体があると男性ホルモンが機能してオスになりますが、分化の過程で様々な障害が生じることがあり、分類困難な個体が一定数現れます。男女の定義を明確にすることが難しい中で、多くの競技が男女別に行われるスポーツの世界では、平等と安全を両立することは不可能です。だからこそ、各競技団体には明確な基準を作る責任があります。男女別を廃止すると、すべての人が平等に参加でき、検査も不要になりますが、女性が排除されることが多くなり、危険性も高まります。一方、Y染色体がないことを条件とすると、生まれてからずっと女と思っていた自分が、突然男だと宣告される悲劇も起こり得ます。このような混乱の中で正解を見つけるのは容易ではありませんが、スポーツにおけると男女の定義が、一般社会におけるものとは一線を画すものだと周知した上で、Y染色体を選ぶのが現実的だと思います。


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