Vol.317 医療分野におけるAIやロボットの影響
医療分野にも人工知能(AI)やロボットの導入が進み、電子カルテが普及するにつれて、画像診断や病理診断では医者の果たす役割が減少しています。診察前の問診は、方言や患者の理解力の差など難しい面はあるものの、ヒトと同等の質が担保され、患者を不快にすることが少ないという報告もあります。また、医者と患者の会話から病歴をまとめてカルテに記載する技術も実用化されようとしています。最新の知識を持ち続けることが、勉強熱心な医者でなくても可能になり、しかも幅広い分野から抽出することが容易になりました。知識量では人間はAIに立ち向かえなくなりましたが、技術も正確で疲れを知らないロボットは医師不足を補えそうです。
狭い分野の特殊な専門家よりも、総合診療などの需要の多い部門の医者が増えるほうが、国民の利益になり、医療費の削減も容易になります。「神の手」を持つ外科医はほんの一握りで十分で、普通の手術を普通にできる外科医を養成するほうが、低コストで国民の不幸を最小限にできると思います。「紙の手」のような手の私でも、ケガやヤケドや床ずれの処置やありふれた手術ができる間は医者として働けそうです。一人当たり数千万円の税金を投入して養成した医者が、初期研修を終えると怪しげな美容外科医になることに、国民は納得しないでしょう。医者の仕事がAIやロボットに取って代わられるのは、国民にとっては喜ばしいことです。
他の職種に目を向けると、AIやロボットに最も取って代わられやすいのは薬剤師ではないでしょうか。医者の処方をチェックするのはAIのほうが正確です。病院の薬剤師には多くの仕事がありますが、6年間の専門教育を終えたばかりの薬剤師が、現在のドラッグストアで働くのは問題です。ドラッグストアはスーパーやコンビニに代わるのではなく、診療所の役割を担うべきではないでしょうか。血圧だけでなく血糖も簡単に測定できるようになった現在、安定した高血圧や糖尿病の管理は、看護師と薬剤師が行うシステムを国が構築すれば、医療の質を落とすことなく医療費を削減することにつながる可能性は大きいはずです。逆にAIに完全に取って代わられないのは、看護や介護部門で、リハビリもそれに近く、検査やレントゲンの技師と医療機器のエンジニアはその中間的な位置でしょう。看護や介護の分野には肉体労働を軽減するロボットの導入は早急に行うべきですが、患者の個別の微妙な要求に応えることはまだまだAIには難しく、患者の期待を上回る対応をすることは不可能でしょう。リハビリの需要は今後も減ることはないので、必要性は看護部門と同じだと思います。技師の仕事は多岐にわたっているので、人間を必要とすることはなくなることはないでしょう。医者を含めてすべての職種に言えることですが、求められることをできる人材は必要とされ続けるでしょう。
私の病院では「医師事務」という部署があり、事務職員が診断書や診療録のサマリーの一部を代行してくれるようになり、煩雑な業務が軽減して個人的には大変助かっています。診断書などの書類作成が滞らなくなるので、患者サービスにも貢献しています。このような分野にもAIが進出することは間違いなく、余剰人員が出るはずです。我々のような弱小病院ではそのパワーを別の部門に活用できるので大いに期待しています。医師事務の職員は専門教育を受け特別な資格を持っていない人が多いのですが、経験を積むと医療分野への理解は、広い範囲にわたって深くなります。私も初めは診断書を書いてもらっても、結局は自分で書き直さなければならないと思っていましたが、実際にはほとんど手直しすることはなくなりました。このような貴重な戦力は、事務作業だけでなく、診療の補助として活躍する場があるはずです。AIを人間への脅威と考える向きもありますが、人材確保に悩むところでは人間の活躍の場が広がる可能性を感じます。