新庄徳洲会病院

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掲載日付:2023.08.22

Vol.269 マイナンバーカードと保険証の問題

 内閣支持率の低下の主な原因はマイナンバーカード(以下Mカード)のトラブルと言われていますが、それほど深刻なものでしょうか。確かにコンビニで住民票など別人の証明書が発行されたのは個人情報の漏洩です。また、健康保険証・年金・公金受取口座などでの登録情報の誤りや、介護療養費5万数千円が同姓同名で同じ生年月日の別人の口座に振り込まれる事例も発覚しましたが、大多数は本人以外の家族の口座を登録した事例です。これは本人または家族が行えばほとんど防ぐことができ、その他の発生頻度は1万件に1件程度です。

 このような騒動の中で、健康保険証をMカードと一体化することにも不満が出ています。日本の国民皆保険制度は、誰もが少ない自己負担で、均一の医療が速やかに受けられるという世界にも例のないものです。2003年の厚労省の研究では、保険情報の誤りや不正使用が年間600万件もあり、その処理のための経費が1000億円を越えると推定され、クレジットカードのような認証システムを導入すれば解決すると述べられています。それがマイナ保険証で解決できるのであれば大きな意義があります。また、これまでの保険証には、本人確認ができないという欠点があり、他人の保険証を使って医療を受ける「なりすまし受診」の問題もあります。我が国では3ヶ月以上滞在する外国人は国民健康保険に加入できるので、実質的には保険料を収めずに日本の医療にタダ乗りする者もおり、健康保険証が違法に販売されているという話さえあります。

 私は一体化に賛成ですが、現在のやり方はあまりにも拙劣で拙速です。マイナポイントを餌にしてMカードを普及させて一気に一体化させようとしていますが、どの医療情報を連携するか、その際に弱者が不利益を被らないようにするかを、時間と労力をかけて進めるべきです。住基ネットの失敗から学んだことを活用する時間は十分にあったはずです。従来の保険証を本人確認ができるように使用法を変更して当面は残すという選択肢もあるはずです。そもそもMカードはオンラインで使用できる身分証明書であり、それ以上でも以下でもありません。Mカードを導入すると個人情報を国に知られると言いますが、その気になれば個人情報を国は簡単に手に入れることができるはずです。問題は、いつどこで誰がどのような目的で情報を利用したかを透明化するかということです。Mカードと銀行口座が紐付けられれば、コロナの交付金はあっという間に安い経費で配ることができたでしょう。多額の残高がある口座と紐づけするのが危険であることは、クレジットカードと同じで、これは自己責任です。他人の手に渡った時の被害は現在のMカードはクレジットカードより少ないと思います。Mカードの返納を進める勢力がありますが、これは意味がありません。不安なら口座との紐づけをしなければよいのです。

 私が最も不安なのは、国民の膨大なデジタル情報を安全に管理できるかということです。安全保障上問題視されるTikTokを使って、Mカードの普及啓発を行うデジタル担当大臣の感覚は異常です。彼は、コロナワクチンの安全性と有効性を過剰に強調し、利益相反の疑いさえある太陽光発電を激押ししています。安全保障体制が世界一甘いことが知れ渡っている中で、国民の膨大な情報が盗まれたり、システムが破壊された時の被害は甚大です。便利なものはリスクが高いのです。デジタル化は経済成長にもつながりますが、大惨事も招きます。デジタル化の最先進国であるエストニアは、かつてロシアからのサイバー攻撃を受けて、行政機能が停止したことを猛省し、安全性を最優先しました。鎖国して生きていくことができない現代で、性善説が通用しない人と共存して、最も弱い人のことも守る制度を構築することが、今の政府にできるのでしょうか。的はずれな批判を繰り返すメディアにも煽られないように私達も賢くならねばなりません。

掲載日付:2023.07.21

Vol.268 弱者が強者を駆逐する?

 経済産業省に勤務するトランス女性の職員Aさんに対する最高裁判決について、いくつか感想を述べます。Aさんは、50代の戸籍上は男性で、性同一性障害の診断を受け、健康上の理由で性適合手術は受けていませんが、長くホルモン治療を受け、名前も女性らしいものに変更し、服装も女性と報道されています。自称トランス女性ではなさそうです。

 まず、医師が診断した「性同一性障害」という病名の持つ意味は重いと考えられていますが、この診断はかなり曖昧なものです。生物学的な性別の特定には染色体検査やホルモン検査が行われるでしょうが、精神科や心療内科での問診が中心になり、血液検査や画像診断などの客観的な指標はありません。性同一性障害の病態(心と身体の性が一致しないメカニズム)についてはわかっていないはずで、実際にWHOでは病気とは認めなくなりました。極端な言い方をすると、問診への対応を覚えれば診断を受けられることが多く、実際にマニュアルもあるようです。

 次に、Aさんは健康上の理由で男性から女性への性適合性手術を受けられないとのことですが、この手術には段階があり、最低限の手術では、①陰茎と睾丸の切除、②陰嚢の皮膚の切除と縫縮、③尿道口の形成の3つをすれば良く、尿道口の形成は専門的な技術は必要かもしれませんが、身体的な負担はかなり小さいはずで、20年以上公務員として働いてきたAさんには耐えられないとは考えにくい気がします。トランス女性は自分の男性器に対して嫌悪感を持つことが多く、切除しても満足していない人もいるようなので、判断は難しいですが、手術を受けたくないから受けていない可能性もありそうです。戸籍上の性別変更を裁判所に申し立てる要件に適合手術は含まれているので、Aさんは戸籍上女性になることはできません。手術を受けたくないけど、女性として生きたいのであれば、多少の不自由は受け入れるべきではないでしょうか。

 さらに、Aさんは職場の離れた階で女性用トイレを使っていたようですが、なぜ多目的トイレではだめなのでしょうか。多目的トイレは様々の目的で性別に関わらず使えます。経産省にも多目的トイレがあり、それを増やしたという話もあります。多目的トイレを使用することで双方が妥協できなかった理由は判決文には見つけられませんでした。私が職場で同様の要求をされたら、多目的トイレを増やすからそれを使ってもらえませんかと言うつもりです。そもそもAさんの周りの人が女子トイレを使うことになんの違和感ももっていなければこのような問題は起こらなかったはずです。司法の場で決着をつける以外に解決手段はなかったのでしょうか。

 女性が守られるべきなのは身体的弱者だからです。世界一の女性格闘家に、私は秒殺されてしまいますが、彼女は男性のチャンピオンには刃が立たないはずです。体力で劣る女性が、男に対して恐怖を持つのは当然です。トイレを使う時間は女性の方が長く、排泄行為以外の目的でも使われるので、女性用トイレはもっともっと増やすべきです。共有スペースで女子トイレに長蛇の列ができるのはよく目にする光景で、イベント会場や高速道路のサービスエリアなどで中年女性が団体で「今だけ男と」言いながら男子トイレに入ってくるのは、大阪発?のトランス男性と言ってもよく、容認しても良いと思いますが、その逆は犯罪です。性的少数者が100%満足するために女性という弱者が不安を抱えて生きていかなければならないのは容認できません。私は医療者なので、患者という弱者に向き合っています。職員に私が強調するのは、「弱いと正しいは無関係、弱者には思いやりが必要だが、それは言いなりになることではない。」ということです。強者が弱者を排除するのは容易に想像できますが、弱者が強者を駆逐することもできるのです。

掲載日付:2023.07.20

Vol.267 これぞマッチポンプ!

 LGBT法案は、6月16日に国会で成立し23日には施行されましたが、21日にこの法案に消極的だった自民党の有志議員(自称保守派?)が、「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」(通称・女性を守る議連)の設立総会を開きました。性的少数者への理解を増進させる法案成立に伴い、トランスジェンダー女性(生まれつきの性別は男性、性自認は女性)を自称する不届き者が、トイレや公衆浴場や更衣室などの女性専用スペースを利用するのではないかという不安を払拭するのが目的とのことです。設立趣意書には「安心安全を守る制度を確立して、女性と女子の『生存権』を確保しなければならない」と記され、法を整備することにより理解増進法についての女性たちの恐怖と不安を緩和することを目指すようです。

 この動きを受けるかのように6月23日には厚生労働省から「公衆浴場や旅館業の施設の共同浴室における男女の取扱いについて」という課長通達が各自治体に対して出されました。これによると、男女とは身体的な特徴をもって判断するものであり、浴場業及び旅館業の営業者は、 例えば、体は男性で心は女性の者が女湯に入らないようにする必要があるので、自治体は営業者に対して周知や指導するようにとあります。

 この通達によりトランス女性を自称する変態男が女湯に入ることは防ぐことができるという自民党の国会議員がいますが、本当でしょうか。そのような事態に業者が警察に連絡しても、警察は逮捕するか、逮捕しても検察は起訴するか、起訴しても裁判官は有罪判決を下すかというハードルがあります。警察官も検察官も裁判官も人間であり、世間の風潮を気にします。自分の行為がどのように話題になって評価を受けるかを考えないとは思えません。このハードルをすべて越えなければ、既成事実となってしまいます。さらに、逆に自称トランス女性が業者を名誉毀損で損害賠償を求めて民事訴訟した場合、面倒な裁判に対応しなければなりません。時間と労力と少なくない弁護士費用をかけてまでやってられないと考えるほうが普通で、業者は告発することに消極的になるのではないでしょうか。もし本気で女性を守る気があるのなら、少なくとも男女の区別の基準は最低限明記する必要があり、さらに具体的な事例を提示すべきでした。性自認を認めることになった以上、この法律に基づいた性別の主張がお墨付きとなったのです。だからこそ、もっともっと時間をかけて慎重に審議すべきでした。(その上で廃案とすべきでしたが…)

 そもそも不必要な法案を強引に成立させ、その後に私たちは女性の安全を守るために努力していますという姿勢を見せた議員は、放火犯を手助けしておいて、燃え上がったら一生懸命消火しているのをアピールするようで、まさにマッチポンプの典型です。と思っていたら7月11日には最高裁で、経済産業省に勤めるトランス女性の職員が、職場の女性用トイレの使用を制限されているのは不当だとして国を訴えた裁判で、制限を認めた国の対応は違法だとする判決が出ました。あくまでもこの事例についての判断であり、一般化するものではないとされていますが、裁判官は補足の意見書で、一般職員は研修によってLGBTに対する理解を深めるべきだとも述べており、時流の影響を受けたことは明らかです。そもそもこの判決が、不届き者の行動を正当化する拠り所にならないと考えるほうが異常です。今後、官公庁はもとより一般企業でも性自認によるトイレの使用についての対応が大きな関心事となり、女子トイレを廃止して男女共用トイレを作る動きが進むでしょう。すでに都内の公園では女子トイレがないところが60%を占めているようです。さらには学校現場でも性教育がより過激になり、子供に性自認で悩みを持つように仕向けるでしょう。この判決もLGBT法案も大きな転換点になりそうです。


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