新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.08.03

Vol.223 誰のための働き方改革?

 いろいろな職種で働き方改革という名のもとに、労働時間を短縮する政策が進められています。医療業界も例外ではなく、厚生労働省の医師労働時間短縮計画策定ガイドラインでは、時間外労働(残業)時間が年960時間を超える医師が勤務する医療機関に対して、2023年度末までに計画の作成・実施と都道府県への提出が義務付けられました。今回のコロナ騒動の影響で、計画の作成は努力義務に変更されるとともに、都道府県への提出も任意となりました。

 働き方改革は、低賃金で長時間労働を強いる雇用者をなくすために進められている政策だと思います。確かに連日の長時間労働から医師が自死した事件もあり、医療業界にも過酷な労働環境はありますが、逆にもっと仕事をしたいという医者が仕事をできないという現象も起きています。私は医者になって35年以上経ちますが、自分の労働時間を意識したことはほとんどありません。私が研修を始めた病院は1000床以上の大病院で、初期研修医の頃は毎朝7時30分からのカンファレンスがあり、ほぼ連日深夜まで仕事をしていました。週に一度は当直があり、その翌日も同様の仕事でした。外科医になってからは月曜日から木曜日までは朝から夕方まで予定手術があり、金曜日は恐怖の?部長回診でクタクタになり、翌週の術前検討会の準備から、溜まった診療録や書類を土曜日までかけて整理し、週末に当直があると2週間通しの仕事漬けの生活でした。緊急手術も多く、その90%以上に参加していたと思います。今から思えばハードな6年間でしたが、私の医者としての基礎を作ったことは間違いありません。17年前からは現職ですが、今でも毎朝7時には業務を開始しています。

 私の歩んだ道を今の若い医師に進める気はありませんが、画一的な労働時間を前提とした働き方には抵抗を感じます。年齢や環境によっては徹底的に仕事に集中する時期があってもよいと思います。医者以外でも、元気なときに多くの仕事をして収入を得て、それを元手に夢を叶えるということもあるでしょう。勤務時間を制限するのは、改革の一つの手段であって、それ自体が目的になっていないでしょうか。自死に至った医師は、個別の例として十分に検証し改善点を探すべきです。医療業界では若手医師の労働時間を減らすため、研修医は時間が来たら手術から降りて退勤するところもあるらしく、また当直回数も少なくなり、当直明けは早く退勤するのが当たり前になり、その分の仕事を年長者が行うことも現実に起こっているようです。

 将棋の永瀬拓矢王座は、強くなるためには1万時間の努力が必要であるという信念から、棋士になって毎日10時間の勉強を3年間続けたそうです。彼に勤務時間という意識があるとは思えません。最近の若い医師は、医学知識が豊富で、対応も丁寧で、昔よりもヤブ医者は少ないと思いますが、それでも経験による差が現れる場面は少なくありません。特に手術などの技術を要するものは今でも経験が物を言います。知識を身に着けた上で、集中的に技術を学ぶのは、圧倒的に若いときが有利です。その時期に、退勤時間が来たらさようならする生活は、私なら耐えられません。そのような医者がいてもよいでしょうが、同一規格の医者がそこそこのレベルの機械的医療に均一化されると、徐々に医療の質は低下します。機械的な人間が行う医療は、人工知能が行う医療には決して勝てず、結局は医療を受ける側が損をします。私はそのような医療を受ける側にも提供する側にもなりたくありません。医療に限らず、全てうまくいくシステムが存在するという幻想は捨てて、それなりに作り上げたシステムを微調整しながら、運用方法を変更したほうがよいと思います。今の働き方改革は、弱い労働者を守るためではなく、政治家が「やっている感」を見せ、行政が責任を取らずに済むためのものだとしか思えません。

掲載日付:2021.07.14

Vol.222 もっと解剖を

 ワクチン接種後の死亡が多いという指摘がありますが、他方でそれはワクチンとは無関係だという意見もあり、どちらも一理はあると思います。今のところ効果はあるが、急性期の副反応はやや強めで、長期の副反応は今のところ何とも言えないというのが私の感想です。7月7日に厚労省が、新型コロナワクチン接種後に死亡した556件を発表しましたが、今回初めて「因果関係あり」という事例がありました。問題となったのは80歳の女性で、2回目の接種7日後に「血小板減少症」と「くも膜下出血」で死亡しています。「関連なし」は7例で、残る548例は「情報不足等によりワクチンとの因果関係が評価できないもの」に分類されています。この圧倒的多数を評価できないままで終わらせず後世に活かすために、積極的に解剖した方がよいと思います。

 死後の解剖には、医療が行う解剖と警察が行う解剖があります。前者は病理解剖と言い、日本病理学会のホームページではその目的を、「病気で亡くなった患者の臓器・組織・細胞を直接観察して詳しく医学的に検討して、きわめて精度の高い病理診断をすることで、死因を正しく理解し、治療の適切性についても検討すること」と述べています。私が医者になった35年以上前は、患者さんが亡くなったときにほとんど全例で遺族に病理解剖をお願いしていました。解剖の同意を取ることが臨床医として最後にできることだと恩師から指導されましたが、私はほとんど取れない出来の悪い研修医でした。当時病理解剖は、年間約4万件行われていましたが、最近では1万件ほどに減少しています。これは、CTなどの画像診断が進歩し、解剖しなくてもわかる事が増えたからだと思いますが、個人的には解剖なんてしなければよかったという事例はただの一度もなく、今でも解剖によって判明することは少なくないと信じています。一方の警察が関与する解剖は、変死体などの死因究明のために行われるもので、犯罪の可能性があり裁判所の許可のもとに行われる司法解剖と、犯罪性はないが死因を究明する目的で遺族の承諾のもとに行われる承諾解剖があります。これらは病理解剖と逆に増加傾向で、令和2年度は全国で1.9万件以上が主に大学の法医学教室で行われています。

 解剖をしても死因がよくわからないこともあるので、ワクチン後に死亡した人を解剖しても、その影響が判定できないことが多いような気がします。しかし、多くの症例を蓄積することで、その中に何らかの共通点が見つかり、将来新たな事実が判明する可能性も否定できません。特に、それまで健康だった人がワクチン後に急に亡くなった事例は、ある程度の強制力を持ってでも解剖したほうがよいと思います。「血小板減少」や「クモ膜下出血」や「脳出血」が関係している事例にはなおさら重要です。医療従事者も数人が脳血管障害でワクチン後に死亡していますが、いずれも解剖していないようです。残念なことです。

 今回のワクチン接種は歴史上初めての壮大な人体実験です。だからこそ感染や重症化の予防効果の検証とともに、どれくらいの副反応があるかを可能な限り正確に評価する必要があります。すぐに結論は出ないでしょうが、データの蓄積に励むべきです。犯罪性はないので司法解剖の対象にならず、遺族の同意が必要になります。突然家族を失った遺族がこれ以上死者を苦しめたくないと解剖を拒否する気持は理解できますが、尊い生命を少しでも今後に役立てるように解剖をすべきではないでしょうか。ワクチン接種を受けた私は、実験材料の一人(一匹?)だと認識しており、材料は材料として最後まで役割を果たすのが務めという覚悟は、医療従事者の端くれとして持っています。ある程度の強制力を持って解剖に踏み切るためには、新たな法整備も必要になりますが、それをしてでも積極的に行う価値はあると考えます。

掲載日付:2021.07.07

Vol.221 医療従事者の感染リスク

 私は胸部レントゲン撮影を毎年受けています。これは肺癌検診ではなく、医療機関に勤務する者は結核などの疾患に罹患しやすいので、感染拡大を防ぐために、労働安全衛生法に基づいて雇用者に義務付けられている健康診断です。我が国では看護師が結核に感染するリスクは一般人の4倍程度あるという報告があり、検査技師や解剖に従事する関係者は更に高いと言われています。2018年の新規登録は14460人で、そのうち475人(3.3%)が医療従事者で、2019年には結核で2088人が死亡しています。死亡率は新型コロナよりかなり高い疾患です。

 医療従事者は、他にも様々な感染症に職場で罹患するリスクがあり、そのために命を落とすこともあります。有名なのは1987年に三重大学附属病院の小児科に勤務する医師2人が、患児から感染したB型肝炎が劇症化して亡くなった事件で、これを契機に全国調査が行われ、2年間で7人の医療従事者が針刺し事故による感染から劇症肝炎となり死亡していたことが判明しました。B型肝炎は、ワクチンや針刺し事故直後の治療法の確立や、医療安全対策の啓蒙による針刺し事故の減少によって急減しましたが、医療現場で感染症のリスクが高いことは間違いありません。

 危険と隣り合わせの職業にはどの程度のリスクがあるのでしょうか。警察官は全国に約23万人いますが年間の殉職者は10人前後です。消防職員は約16万人で十数人、自衛官は24万人で10人前後です。非常事態に対して十分な訓練を受けている専門職も、この程度のリスクを日頃から背負っているのですが、今回のコロナ騒動で、医療従事者はどの程度のリスクを背負ったのでしょうか。5月末にWHOは、世界で11.5万人の医療従事者が、3月に国際看護師協会は、60か国で約3000人の看護師が、それぞれ死亡していると発表しました。我が国の医療従事者は200万人以上いるはずですが、新型コロナで死亡した医療従事者は、検索した範囲では70代の男性医師2人以外には見当たりませんでした。また、滋賀県で、コロナ対応病棟の従事者と、それ以外の病棟勤務者の合計約1200人に対して、ワクチン接種前の2月に採血し抗体検査を行ったところ、抗体保有率に差はなく、国が昨年12月に実施した一般人の保有率とも同等でした。さらに、東京都の資料によると、医療従事者の感染者数は、第3波のピークだった1月が526人(全感染者数の1.3%)、2月が366人(同3.3%)、3月が237人(同2.5%)でしたが、その後急激に減少し、4月が77人(同0.4%)、5月が46人(同0.2%)になっています。感染者数だけでなく全体に占める割合も大きく下がったのは、2月に始まったワクチンの医療従事者向けの優先接種が原因と考えられます。以上から、我が国では今のところ医療従事者の新型コロナに対する感染・重症化・死亡のリスクは、一般人に比べて高いとは言えないようです。

 医療従事者の中でも新型コロナ患者に接する者は、感染機会が多くても感染予防対策がきちんとできている上に、ワクチン接種が進んでいるという追い風もあるので、患者との接し方も以前のような過剰とも思える対策は控えるようになってきているようです。感染リスクが高くないのであれば、ワクチン接種が進んだこのタイミングで、ぜひとも二類感染症の指定を外してほしいものです。山形県は初期段階から県のレベルで医療機関の役割分担を明確にしているので、私の病院では新型コロナの患者は外来で2例経験しただけですが、患者が急増した際には、専用病棟を作り最大限受け入れることを行政側にも伝えています。何の装備もなく燃え盛る炎に飛び込んでいく消防士は無謀ですが、訓練を受け装備を整えてなお現場に向かわないのは職務怠慢でしょう。同様に、知識と技術を身に着けた医療従事者が、コロナという炎から「発熱患者お断り」と逃げ出すのは、医療者としての矜持が問われるのではないでしょうか。


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