新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.03.01

Vol.210 問題は民間病院が多いことではない

 新型コロナの感染拡大に伴い医療崩壊が叫ばれていますが、その原因の一つに民間病院が患者を受け入れないことが挙げられています。確かに我が国の医療機関のうち、国公立病院に日本赤十字や済生会や厚生連などを加えた公的な病院は、数では2割、病床数では3割程しかありません。この傾向は都市部ほど強く、地方では逆に公的病院が優勢で、山形県は病院数では44%、病床数では55%を占めています。新型コロナも、まず県立の医療機関が対応し、民間病院はそれをバックアップする体制で、今のところ比較的落ち着いています。私の勤務する民間の中規模病院の役割は、基幹病院が新型コロナに対応できるように、それ以外の患者やコロナ治療後の患者を受け入れることです。当然、感染爆発や院内での集団感染にはその診療にもあたる覚悟です。

 医療制度を考えるときには、医療機関へのかかりやすさ(アクセス)、医療の質、医療に要するコストの3つの面から考えなければなりませんが、この3つを同時に満足させることはできないと言われています。我が国のアクセスは世界一ですが、その理由は、国民皆保険制度と中規模以下の民間の医療機関が多く存在することだと思います。高度経済成長の波に乗って、いつでも誰でもがどの医療機関でも受診できるようになりましたが、これは世界に類を見ないことです。また、困ったときに速やかに無料で救急車が医療機関に搬送してくれる国も少ないはずです。

 コストはGDPに対する医療費で評価され、以前は先進国中低いレベルに抑えられていましたが、医療技術の進歩に伴う医療費の増大とGDPの停滞により中位になりました。国はこれを問題視して「地域医療構想」を導入して病床を削減し、診療報酬を抑制して医療費の削減を図ろうとしていますが、成果はあまり上がっていないように思います。我が国のように保険診療で認められればどんな高額医療でも月額10万円以内で受けられる国は例外的ですが、にもかかわらず民間の医療保険を喧伝するのは、今後国民皆保険制度を縮小する魂胆があるのではないかと疑ってしまいます。

 医療の質の指標には平均寿命と乳幼児死亡率が用いられることが多く、その基準では世界一と言って間違いありませんが、改善すべきことはあります。我が国は世界一の高齢化が進んでおり、高齢者の医療をどのように行うかは避けては通れない問題です。可能な医療と必要な医療を冷静に見極め、過剰な医療(検査・手術・薬)を止めることは真剣に考えなければなりません。また、先進国中では、医者は少なく、看護師は平均、薬剤師は多いことを考えると、医者を急に増やすことよりも薬剤師の仕事を増やすことを考えるほうが即効性があり現実的です。乱立する調剤薬局やドラッグストアの現状は大いに改善する余地があると思います。

 公的病院の多くは経営難で、新規に創るのはもちろん、現状を維持するのも困難で統廃合や縮小化が進行しています。公的病院は不採算部門を引き受ける責務がある一方で、公的資金による補填があるので経営に甘い面があることも否定できません。我が国における公的病院の比率を短期的に上げることが、不可能かつ無意味であることは明らかです。そのような背景を知ってか知らずか、マスコミは「抜本的改革」を安易に訴えますが、よい部分は守り、悪い部分は少しずつよくしていく道筋を考えるしかないのです。もちろん医療側もすぐにできることはしなければなりません。非常時と言うのであれば、平時と同じでは医師免許が泣きます。平均よりかなり高い私の給与には危険手当が含まれているはずです。医療を受ける人も提供する人も、少しでも多くの人がリスクを背負って生きる覚悟を持てば医療が崩壊するとは思えません。

掲載日付:2021.02.24

Vol.209 女子高校生の自殺倍増から考える

 米国のウォール・ストリート・ジャーナルから世界59カ国の新型コロナの超過死亡が発表されました。新型コロナの流行により死亡数がどれだけ増えたかという数字です。データはそれぞれの国からの提供されたもので信憑性には疑問の余地がありますが、2020年の超過死亡は全世界で280万人になりました。そのうち新型コロナが直接死因となっているものは2/3以下で、残りは間接的に関連しているということです。最も多いのは米国で、別のデータでは20万人に達しています。多くの国で超過死亡はプラスになっている一方で、9カ国でマイナスに、つまり新型コロナの流行により死者が減った国がありますが、その中で我が国はずば抜けて減少幅が大きいのです。

 速報値ですが、昨年の人口動態統計では総死亡が前年より9373人減少しました。これは11年ぶりのことです。一方で、自殺者は増加し750人多い20919人になりました。リーマン・ショック後10年連続で減少していたものが11年ぶりに増加に転じました。人口10万人当たりの自殺者数も11年ぶりに増えています。中身を見ると、男性が前年に比べて135人減少し13943人で11年連続で減少しているのに対して、女性は885人増加し6976人になりました。特に気になるのは若年者で、児童や生徒は、前年より140人増えて479人、過去30年で最多です。内訳は、小学生が前年より8人増の14人、中学生が40人増の136人、高校生が92人増の329人です。特に高校生の女子は67人から138人と倍以上に増えています。増加したのは昨年の5月以降で、動機はうつ病が最多です。この背景は今後の分析を待たなければなりませんが、昨年に起こった急激な変化ということは新型コロナの流行の影響があると考えてよいでしょう。新型コロナの流行またはそれによる社会情勢の変化により数十人の女子高校生が亡くなったと考えてもよいということです。ちなみに、この年代で新型コロナウイルスに感染して死亡した人はいません。米国ほどの被害があれば話は別ですが、我が国において新型コロナはこれほど社会を大きく変える必要のある病気なのでしょうか。もっと普通の病気として付き合うべきではないでしょうか。

 癌を患った老医師が、自分は余命が短いので、もし新型コロナウイルスに感染しても、人工呼吸器やECMOなどの高度医療は受けずに若者に譲るという意思表示を示したカードを作りました。それに賛同する意見があった一方で、「高齢者は死ねというのか」という反論もありました。彼は決して他の高齢者に強要しているわけではなく、自分はそういう選択をすると表明し、それに賛同する人を募ったに過ぎません。私も彼と同じ行動をとると思います。高齢者は死んでもよいとは思いませんが、高齢者から死んでいく社会のほうが健全だと思います。新型コロナは幸いにも若者が大きな被害にあうことが少ない病気です。我が国は世界一の高齢化率であることを考えると、現状の死亡者数は奇跡的に少ないと言ってもよいはずです。

 ある80代の芸能人が自分は100歳を過ぎても舞台に立つために、高度医療を若者には譲らないと発言していました。今はまだその選択は受け入れられるかもしれませんが、医療技術が進歩し医療費が増大する一方で、経済情勢が悪化していることを考えると遠からず優先順位をつけなければならなくなります。実はすでにその選別を医療者は押し付けられているのです。マスコミはキレイ事ばかり並べずに、現実に向き合うべきです。年齢はもっとも公平な基準です。社会的地位や学歴や人格で判断されるよりも、金の有無で判断されるよりも、フェアではないでしょうか。中高年と違って、今の若者は昨日より今日が、今日より明日がよくなるという希望を持てる時代を知りません。いい思いをした世代は、若者が希望を持てる社会を残すことに目を向けるべきです。世代間戦争などまっぴらごめんです。

掲載日付:2021.02.03

Vol.208 看護師が戦線離脱しないためにはお金よりも…

 民間病院の受け入れが悪いことが医療崩壊の原因と言われていますが、大事なことは、大規模病院から診療所までの各医療機関が役割を分担して、できる範囲のことを最大限に行うことだと思います。現状は、一部の病院に負担が集中し、その病院の一部の職員が疲弊してしまっています。緊急事態であれば、医療従事者はそれを自覚し負担を分け合う覚悟を持たねばなりません。それが専門職の誇りです。そのためにも行政は一日も早く二類感染症相当を解除し、多くの医療機関がこの病気に関われるようにすべきだと思いますが、緊急事態宣言を支持する国民が90%近い現状では、インフルエンザと同様の五類感染症にする決断ができる政治家がいるとは思えません。逆に現国会で特別措置法や感染症法が政府の意向通りに改正されると、さらに厳しい扱いを受け、早くてもワクチンの普及後になるのではないかと危惧します。

 医療機関や医療従事者へ経済的援助を増やせば、引き受け病院が増えるという意見もありますが、現行の援助がさほど貧弱だとは思えません。私の病院のような後方支援病院にも、それなりに支援されていますが、中にはCT撮影装置付きの専用病棟を造って診療報酬まで保証されている病院もあり、経営難の医療機関がある一方で、潤っているところもあります。「新型コロナでは医療機関は潰さない」という姿勢を政府が示した上で、厳しい環境に従事する者へ報奨金を支給すべきです。医療従事者の多くは病める人の役に立ちたい気持ちを持っているのです。

 医療従事者でも特別に大変な思いをしているのは看護師です。医者の仕事は、頭脳労働が多く、患者と距離を保つこともある程度は可能で、業務もかなりマニュアル化されていますが、看護師は患者と密接する機会が多いので感染のリスクは大きく、特に今回の騒動では、本来は外注の業者や看護助手がすることが多い清掃・ごみ処理や食事介助やベッドメーキングなども行っているのが実情のようです。本来の業務も専門性の高い頭脳労働と単純な肉体労働が複雑に絡み合っており、厳重な感染予防対策をしながら業務を遂行することは肉体的にも精神的にも大変なことです。また、看護師の仕事の多くは、「医師の指示」によるもので、自ら考えて行動することは多くありません。いわば他人に命令されて動く事が多いので、疲れやすくストレスも溜まります。某テレビ番組で、都内のある大学病院に入院してきたホストたちが昼は病院食を取らずに寝ていて、夜になって「腹が減った」と、感染者は外出できないので看護師に買いに行かせたという話が紹介されていたそうです。これが本当であれば、看護師としての誇りはズタズタになるのではないでしょうか。現場で働く看護師にいくら報奨金を出しても、モチベーションは保てないでしょう。離職したくなるのは当然です。看護師は、患者やその家族に尽くすだけのホストでもホステスでもありません。不特定多数の医療者に拍手をしたり手紙を書くよりも、目の前の看護師に敬意を払い、感謝の言葉を述べるほうが何百倍も価値があることを医療を受ける人達にはわかってほしいのです。社会全体が看護師を尊重する風土を養わねばなりません。

 看護師に限らず専門職が誇りを維持するためには、「経済的な保証がある」ことはもちろんですが、それ以上に「自分の能力を発揮でき」、「自分が社会に必要とされていると感じられ」、「自分にある程度の決定権がある」ことが大きなものだと考えます。医療者が覚悟を持って仕事に臨むのは当然ですが、それを支えているのは医療を受ける側なのです。昨年末に「緊急事態」と言いながら国会が閉会し、「医療緊急事態」を訴え国民に自粛を求めながら多くの医療機関が休診するのはおかしいと思いますが、同じように医療に負担をかけているという自覚のない国民が一定の割合以上になると医療など簡単に崩壊してしまいます。


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