新庄徳洲会病院

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掲載日付:2024.03.13

Vol.276 牛のウンコで車を走らせる

 自動車メーカーのスズキは、早くから海外進出をしていましたが、特徴はアジア・アフリカ・南米の途上国が主な対象になっていることで、今では世界12カ国で四輪車シェアの1位を占めています。特にインドへは40年以上前から進出し、販売台数と売上高も国内を上回り、経営に大きく貢献してきました。そのインドで牛糞から自動車燃料を製造する国家的プロジェクトを進めていることを、産業遺産情報センター長の加藤康子(カトウコウコ)氏がネットニュースで紹介していました。この事業は、インドのスズキ製自動車燃料の70%を占める圧縮天然ガスの代替となる圧縮バイオメタンガスを発酵させた牛糞から製造するもので、2025年に4つの工場を稼働させるために40億円を投資します。牛10頭が1日に出す糞で、1台の自動車が1日走る燃料が賄えるので、3億頭の牛が飼育されているインドでは、3000万台も走らせることができる計算になります。

 この計画がうまくいくかどうかはわかりませんが、インドは自国の置かれている状況を理解し、国の利益のために理にかなった行動をしている点で、我が国より優れていると思います。インドの主たる電力は石炭火力で、脱炭素社会への移行にはあまり積極的でありません。ウクライナ戦争では西側諸国がロシアへの経済制裁を進める中で、石油を安くロシアから輸入するだけでなく、それを他国へ輸出して利益まで得ています。二酸化炭素が地球温暖化の原因と騒ぎ立て、再生可能エネルギーという意味不明の言葉を流行させ、山野を切り崩して自然災害を大規模化する危険を侵してまで巨大な太陽光パネルを敷き詰めたり風車を建設して、外国勢力やその手先となる政治家や経済人が潤う政策を進めるどこかの国とは大違いです。しかも、インドはバイオガスを生産すると、二酸化炭素の28倍の温室効果を持つメタンガスを減少させるので、地球温暖化にも貢献すると付け加えることを忘れません。良し悪しは別にして、実にしたたかです。

 我が国の電力源は、70%以上が火力発電ですが、その主力である石油の90%以上をペルシア湾岸諸国に依存するという非常に不安定な状況です。原子力発電は、福島第一原発事故の教訓を冷静に分析することなく、危険性を強調する勢力に押されて、稼働しているのは10基のみで、発電
量は太陽光にも抜かれました。休止中も冷却作業は継続しており、災害が起これば稼働中のものと同等の危険を孕んでいます。石炭火力発電は世界最高の技術を持ちながら、新規の発電所建設は地球温暖化につながるという政府の意向で銀行は資金の貸付を止めました。我が国は石炭火力を積極的に行うだけでなく、その技術を外国にも輸出すべきです。石炭は、我が国の技術で採掘しているオーストラリアから、安定した供給が期待できます。安価な電力を安定的に提供するためには、どの程度のリスクを受け入れるかということを考えた上で、取捨選択しなければなりません。それができないのは愚者か利権まみれの悪人です。核融合などの新たなエネルギーが開発されるまでは、火力と原子力を主力として、最終的には従来型の原子力発電を終息させるべきです。

 発火する危険性や効率の悪さから、西側諸国が電気自動車の推進にブレーキをかけ始めた一方で、我が国は地方自治体での導入を促進し、一般へは補助金を税金から出し続けています。確かに電気自動車は走行中は二酸化炭素を排出しませんが、生産から廃棄までの全期間を通して計算すると脱酸素にもなりません。電気自動車を最も多く生産している中国が、製造過程で利用している電力は、効率の悪い石炭火力発電です。電気自動車が本当に実用化するには、蓄電池の大幅な技術革新が必要です。我が国には乳牛と肉牛を合わせると390万頭いるそうです。牛舎で管理された糞の回収には手間が少ないので、30万台くらいの自動車燃料は賄えそうです。その時まで生きていたなら、私はスズキの軽自動車に牛のステッカーを貼って乗ろうと思います。

掲載日付:2024.02.14

Vol.275 間違いを認めず、議論が下手なのは?

 コロナ騒動の初期に、「行動を制限しなければ42万人が死亡する」と8割の行動制限を提唱し、「8割おじさん」として名を馳せた数理統計を専門とする医師の西浦博氏は、その後も東京五輪の開催やコロナの5類移行に反対を唱えていました。行動制限の成果があったとは思えませんが、彼は評価しています。確かに制限しなければもっと悲惨な結果になったという主張は否定できません。五輪は開催されましたが、結果は彼の警告とは異なり、自身の考えは過剰だったと認めています。その西浦教授が、昨年10月に「2021年のコロナ死亡はワクチンにより90%以上減少した。今後も接種を進めるべきだ。」という趣旨の論文を発表しました。

 今回の論文では、2021年の2月17日から11月30日までに470万人が感染し、1万人が死亡したが、ワクチン接種がなければ6330万人(6320〜6360万人)が感染し、36.4万人(36.3〜36.6万人)が死亡したというもので、さらに接種が2週間早まっていれば、感染者は54%、死者は48%減少していたということも書かれています。この論文は昨年末にマスコミでも広く取り上げられました。多くの医者は、医学論文を読むために必要な統計学しか知らないので、彼の論文を正しく評価できる医者は、私を含めてほとんどいないと思います。

 ワクチンの感染予防効果に関しては厚労省も否定しています。「思いやりワクチン」として他人に感染させない効果は、肯定する研究もありますが、接種者が感染してもウイルスの排出量は減少しないというデータもあり、微妙なものと言えます。重症予防効果は高齢者にはあると評価されていますが、2021年から2年間の超過死亡が劇的に増加し、それがコロナ関連死亡では全く説明できない規模であることを考えると、疑問を差し挟む余地は十分にあると思います。私は西浦氏の理論を理解できませんが、筑波大学准教授で情報工学が専門の掛谷英紀氏によると、西浦氏の数理モデルは実行再生産数などの前提条件が少し変わるだけで大きく結果が変わるので、6320〜6360万人や36.3〜36.6万人という数字はばらつきが少な過ぎて信用できないと指摘しています。例えるなら、台風の進路をピンポイントで予想するようなものでしょうか。

 政治家は平気で嘘をつき、官僚は真実を語らずバレない嘘をつくのがうまい人種です。メディアでは、NHKも平気で嘘をつくことが明らかになりました。医療や経済などの専門家にもそれが当てはまる時代になったのかもしれません。科学者は真理を追求するというのは幻想かもしれません。国の予算は将来の天下り先になりそうな研究機関に、企業の支援金は自らが望む結果を出してくれる研究機関に、配分されます。西浦氏の理論の真偽は私にはわかりませんが、これまでコロナ対策を主導した専門家が、間違いを認めたことがどれくらいあったでしょう。コロナ騒動で専門家も間違うことがあることがわかりました。問題は間違えることではなく、それを認めず言い訳だけでなく嘘をついてまで利益を守ろうとする学者がいて、意見の異なる人との冷静な議論を避けることです。マスコミはもちろん、医学雑誌さえも異論を取り上げない傾向があります。自らの意見に疑問を持たず、その間違いが明らかになっても、謝罪はもちろん分析もしないままに説明責任を果たさない科学者が多くなったのではないでしょうか。専門領域には、一般人はもちろん政治家が理解できないことが数多くあります。科学が解明出来ないこともあることを理解した上で、対策を取らなければならないのが政治家です。ネット空間は、批判と誹謗・中傷の場になりました。その意味では、学会などマスメディア以外の対面での議論は有効かしれません。議論ではなく、相手を論破するのをエンタメ化したテレビ朝日系の「朝まで生テレビ」がいまだに続いているのは、冷静に議論ができない国民性を象徴しているように感じます。

掲載日付:2024.01.25

Vol.274 天然痘は根絶できた、コロナは?

 天然痘は、ワクチンにより根絶できた唯一の感染症です。1万年前にはあったと言われ、我が国には奈良時代に流入しましたが、国内では1956年、世界的には1977年が最後で、世界保健機

関(WHO)は1980年に根絶を宣言しました。天然痘のワクチンである種痘は、1796年に英国の開業医エドワード・ジェンナーが始めました。当時流行していた牛痘に感染した乳搾りの女性が天然痘にならないことから、その患者の発疹内容液を少年の腕に接種したことが始まりです。我が国では、1789年、緒方春朔が人痘法(天然痘のかさぶたを粉末にして鼻に吹き入れる方法)で接種して成功させました。 その後、1849年には長崎に日本初の種痘所も開設されました。

 天然痘ウイルスは飛沫によって感染し、感染率(感染しやすさ)・罹患率(発病しやすさ)・死亡率が非常に高いことが知られています。天然痘ウイルスに暴露すると、ほぼ100%感染し、感染すると100%症状が出るので、無症状の感染者がいません。そのため隔離すべき患者を選別することが容易で、病気を囲い込むことが可能です。罹患した人の20〜50%は死亡しますが、生き残った人は100%免疫を獲得し二度と感染することはありません。また、ヒト以外の動物には感染しないので、他の動物でウイルスが存続して、後にヒトに感染が広がることはありません。さらに、このウイルスは変異しにくいので、ワクチンの効果が持続します。このような条件がそろっているウイルスだから天然痘は根絶できたのです。

 種痘は副反応が強く、10〜50万人に1人の割合で脳炎が発症し、その致死率は40%という高さで、予防接種健康被害救済制度で死亡一時金が支払われた件数は、コロナ以前では42件と最多です。重症の後遺症も10万人に1人の頻度で見られました。副反応が強いのに種痘が許容されたのは、病気の被害が甚大であることと、ワクチンの効果が高いこと、この2点があるからです。

 一方、新型コロナウイルスは、空気感染が主で、感染力は非常に強く、無症状感染が多いので、感染者の囲い込みは不可能です。ワクチンの予防効果は限定的で、持続期間も数ヶ月です。世界的にワクチン接種が進むに連れて、皮肉なことに感染者は増加しました。我が国では、厚労省がワクチン接種歴の不明な感染者を未接種として集計するというデータの捏造を行い、外部から指摘されて訂正したところ、接種群のほうが感染者が多い年代があることまで判明しました。重症化を予防する効果があると今も専門家は言い続けていますが、そのデータは不十分です。「思いやりワクチン」という言葉で、周囲への感染を防ぐために接種が勧められましたが、接種してもウイルスの放出は防げないという研究結果が出ています。さらに、接種が始まる頃に私も指摘していましたが、ワクチンによって感染しやすくなる「抗体依存性感染増強」という現象も、ワクチンを受けた人に異常な抗体が作られていることが証明され、オミクロン株での感染爆発との関連が疑われています。ウイルスは変異しやすく、変異株への効果はありませんでした。国民の6〜7割が2回接種したら集団免疫が実現すると喧伝されていましたが、全くできませんでした。

 新型コロナの死亡率は季節性インフルエンザと同等になり、特に若者への影響はそれ以下です。予防接種救済制度で死亡一時金が支払われたのは、1月19日には天然痘の10倍を超える423人になりました。この程度の病気に対するこの程度のワクチンを、データを公表して十分な検証もせずに、今後も続けろと言う政府や専門家は信用に値するでしょうか。一旦立ち止まって、ワクチンだけでなく、コロナ対策全体を分析し、その効果や予算配分が適正だったかを検証するときです。遠からず新たなパンデミックはやってきます。


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