新庄徳洲会病院

menu

<

掲載日付:2024.02.14

Vol.275 間違いを認めず、議論が下手なのは?

 コロナ騒動の初期に、「行動を制限しなければ42万人が死亡する」と8割の行動制限を提唱し、「8割おじさん」として名を馳せた数理統計を専門とする医師の西浦博氏は、その後も東京五輪の開催やコロナの5類移行に反対を唱えていました。行動制限の成果があったとは思えませんが、彼は評価しています。確かに制限しなければもっと悲惨な結果になったという主張は否定できません。五輪は開催されましたが、結果は彼の警告とは異なり、自身の考えは過剰だったと認めています。その西浦教授が、昨年10月に「2021年のコロナ死亡はワクチンにより90%以上減少した。今後も接種を進めるべきだ。」という趣旨の論文を発表しました。

 今回の論文では、2021年の2月17日から11月30日までに470万人が感染し、1万人が死亡したが、ワクチン接種がなければ6330万人(6320〜6360万人)が感染し、36.4万人(36.3〜36.6万人)が死亡したというもので、さらに接種が2週間早まっていれば、感染者は54%、死者は48%減少していたということも書かれています。この論文は昨年末にマスコミでも広く取り上げられました。多くの医者は、医学論文を読むために必要な統計学しか知らないので、彼の論文を正しく評価できる医者は、私を含めてほとんどいないと思います。

 ワクチンの感染予防効果に関しては厚労省も否定しています。「思いやりワクチン」として他人に感染させない効果は、肯定する研究もありますが、接種者が感染してもウイルスの排出量は減少しないというデータもあり、微妙なものと言えます。重症予防効果は高齢者にはあると評価されていますが、2021年から2年間の超過死亡が劇的に増加し、それがコロナ関連死亡では全く説明できない規模であることを考えると、疑問を差し挟む余地は十分にあると思います。私は西浦氏の理論を理解できませんが、筑波大学准教授で情報工学が専門の掛谷英紀氏によると、西浦氏の数理モデルは実行再生産数などの前提条件が少し変わるだけで大きく結果が変わるので、6320〜6360万人や36.3〜36.6万人という数字はばらつきが少な過ぎて信用できないと指摘しています。例えるなら、台風の進路をピンポイントで予想するようなものでしょうか。

 政治家は平気で嘘をつき、官僚は真実を語らずバレない嘘をつくのがうまい人種です。メディアでは、NHKも平気で嘘をつくことが明らかになりました。医療や経済などの専門家にもそれが当てはまる時代になったのかもしれません。科学者は真理を追求するというのは幻想かもしれません。国の予算は将来の天下り先になりそうな研究機関に、企業の支援金は自らが望む結果を出してくれる研究機関に、配分されます。西浦氏の理論の真偽は私にはわかりませんが、これまでコロナ対策を主導した専門家が、間違いを認めたことがどれくらいあったでしょう。コロナ騒動で専門家も間違うことがあることがわかりました。問題は間違えることではなく、それを認めず言い訳だけでなく嘘をついてまで利益を守ろうとする学者がいて、意見の異なる人との冷静な議論を避けることです。マスコミはもちろん、医学雑誌さえも異論を取り上げない傾向があります。自らの意見に疑問を持たず、その間違いが明らかになっても、謝罪はもちろん分析もしないままに説明責任を果たさない科学者が多くなったのではないでしょうか。専門領域には、一般人はもちろん政治家が理解できないことが数多くあります。科学が解明出来ないこともあることを理解した上で、対策を取らなければならないのが政治家です。ネット空間は、批判と誹謗・中傷の場になりました。その意味では、学会などマスメディア以外の対面での議論は有効かしれません。議論ではなく、相手を論破するのをエンタメ化したテレビ朝日系の「朝まで生テレビ」がいまだに続いているのは、冷静に議論ができない国民性を象徴しているように感じます。

掲載日付:2024.01.25

Vol.274 天然痘は根絶できた、コロナは?

 天然痘は、ワクチンにより根絶できた唯一の感染症です。1万年前にはあったと言われ、我が国には奈良時代に流入しましたが、国内では1956年、世界的には1977年が最後で、世界保健機

関(WHO)は1980年に根絶を宣言しました。天然痘のワクチンである種痘は、1796年に英国の開業医エドワード・ジェンナーが始めました。当時流行していた牛痘に感染した乳搾りの女性が天然痘にならないことから、その患者の発疹内容液を少年の腕に接種したことが始まりです。我が国では、1789年、緒方春朔が人痘法(天然痘のかさぶたを粉末にして鼻に吹き入れる方法)で接種して成功させました。 その後、1849年には長崎に日本初の種痘所も開設されました。

 天然痘ウイルスは飛沫によって感染し、感染率(感染しやすさ)・罹患率(発病しやすさ)・死亡率が非常に高いことが知られています。天然痘ウイルスに暴露すると、ほぼ100%感染し、感染すると100%症状が出るので、無症状の感染者がいません。そのため隔離すべき患者を選別することが容易で、病気を囲い込むことが可能です。罹患した人の20〜50%は死亡しますが、生き残った人は100%免疫を獲得し二度と感染することはありません。また、ヒト以外の動物には感染しないので、他の動物でウイルスが存続して、後にヒトに感染が広がることはありません。さらに、このウイルスは変異しにくいので、ワクチンの効果が持続します。このような条件がそろっているウイルスだから天然痘は根絶できたのです。

 種痘は副反応が強く、10〜50万人に1人の割合で脳炎が発症し、その致死率は40%という高さで、予防接種健康被害救済制度で死亡一時金が支払われた件数は、コロナ以前では42件と最多です。重症の後遺症も10万人に1人の頻度で見られました。副反応が強いのに種痘が許容されたのは、病気の被害が甚大であることと、ワクチンの効果が高いこと、この2点があるからです。

 一方、新型コロナウイルスは、空気感染が主で、感染力は非常に強く、無症状感染が多いので、感染者の囲い込みは不可能です。ワクチンの予防効果は限定的で、持続期間も数ヶ月です。世界的にワクチン接種が進むに連れて、皮肉なことに感染者は増加しました。我が国では、厚労省がワクチン接種歴の不明な感染者を未接種として集計するというデータの捏造を行い、外部から指摘されて訂正したところ、接種群のほうが感染者が多い年代があることまで判明しました。重症化を予防する効果があると今も専門家は言い続けていますが、そのデータは不十分です。「思いやりワクチン」という言葉で、周囲への感染を防ぐために接種が勧められましたが、接種してもウイルスの放出は防げないという研究結果が出ています。さらに、接種が始まる頃に私も指摘していましたが、ワクチンによって感染しやすくなる「抗体依存性感染増強」という現象も、ワクチンを受けた人に異常な抗体が作られていることが証明され、オミクロン株での感染爆発との関連が疑われています。ウイルスは変異しやすく、変異株への効果はありませんでした。国民の6〜7割が2回接種したら集団免疫が実現すると喧伝されていましたが、全くできませんでした。

 新型コロナの死亡率は季節性インフルエンザと同等になり、特に若者への影響はそれ以下です。予防接種救済制度で死亡一時金が支払われたのは、1月19日には天然痘の10倍を超える423人になりました。この程度の病気に対するこの程度のワクチンを、データを公表して十分な検証もせずに、今後も続けろと言う政府や専門家は信用に値するでしょうか。一旦立ち止まって、ワクチンだけでなく、コロナ対策全体を分析し、その効果や予算配分が適正だったかを検証するときです。遠からず新たなパンデミックはやってきます。

掲載日付:2024.01.10

Vol.273 新しい形の焚書!

 昨年12月5日に大手出版のKADOKAWA(旧角川書店)が、年明けに刊行予定であったアビゲイル・シュライアー著『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』(岩波明監訳)の刊行を中止すると発表しました。同社は「タイトルやキャッチコピーの内容により結果的に当事者の方を傷つけることとなり、誠に申し訳ございません」とコメントを出しました。原題は「Irreversible Damage: The Transgender Craze Seducing Our Daughters」で、私の直訳では「取り返しのつかないダメージ;私たちの娘を誘惑するトランスジェンダーの狂気」となり、訳本のタイトルのほうが軟らかい表現のような気がします。

 著者は米国の女性ジャーナリストで、内容は性自認に疑問を持った思春期前後の女性が、手術やホルモン治療を受けた後に、元の性に戻りたくなっても戻れなくなった例200人以上を取材した記録です。2020年に出版されてから欧米で高い評価を受け、我が国でも翻訳出版される意義が高いと思います。このタイトルがトランスジェンダーの当事者を傷つけるものとは思えません。差別を助長するという一般市民を名乗る少数の執拗な抗議活動によって、業務を妨害された出版社が音を上げて、決断したものと言えます。

 翻訳本の原稿を読んだ人によると、同書は性自認に基づいた性転換をすべて否定するものではなく、生まれながらの性に違和感を持つ思春期前後の女性が性転換を受けた影響を調査したものです。いわゆる「性同一性障害」は圧倒的に幼少期の男児に見られるもので、人口1万人に1人の頻度でしたが、2010年頃から思春期前後の女性を中心にして数十倍に急増しました。その多くは教育水準の高い白人で、自分が属するグループにトランスジェンダーの友人が一人以上いるという特徴があります。現在欧米に広がっているトランスジェンダーは、若い女性の流行と言える現象で、それを一部の医師を含む大人たちが後押しして、性に違和感のある者に、乳房を切除したり、ホルモン療法を受けさせている異常な社会現象であると著者は指摘しています。その結果、元の性に戻りたくなってもそれができない「取り返しのつかないダメージ」を受けた人の声を届け、その上に、同意しない保護者が「虐待」や「差別」と批判されるだけなく、子供への関わりを法的に禁止されている現状を報告しています。私も、医学的に「性同一性障害」と適切に診断された大人が治療を受けることに反対しませんが、思春期の若者がこのような治療を受けることは慎重の上にも慎重を期すべきと考えます。このような事例を冷静に分析した本が、「差別を助長する」という理由で刊行中止になるというのは深刻に受け止めなければなりません。

歴史的に焚書(ふんしょ)とは、独裁者が都合の悪い書物を焼き捨てるもので、古くは秦の始皇帝に、近いところではナチスドイツに、そして我が国でも連合国軍総司令部(GHQ)が大東亜戦争後に7000冊以上を処分した例があります。ところが今回は一般市民が出版社に対して抗議活動を行うというこれまでにないものです。これが成功すると同様のことが次々に起こる可能性が高く、ある個人や団体の発言や行動を問題視して、ネットを使って集中的な批判や不買運動をすることで、対象を抹殺することが常套手段になる危険性があります。日本国憲法21条には、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と明記されており、さらに「検閲は、これをしてはならない」とも書かれています。出版文化を潰すことは、国を潰すことです。一般市民を名乗り、日頃から自由や人権を掲げ、多様性を重んじると訴えている人が、このような行動を取るのはまさにブラックジョークです。気骨ある出版人が立ち上がり、この書籍が出版されることを切望します。


menu close

スマートフォン用メニュー