Vol.136 医療用大麻とは
医療用大麻(マリファナ)の合法化を公約に参議院選に出馬した元女優が大麻取締法違反の疑いで逮捕されました。大麻草は、古くは神社のしめ縄や下駄の鼻緒や漁網に、第二次大戦前には軍足やパラシュートにも使われ、栽培が推奨されていました。1948年に連合国軍総司令部(GHQ)の指示で大麻取締法が制定されて以降、嗜好品として使用または所持することだけでなく、医薬品としての使用や臨床研究も禁じられています。これは世界的にも厳しいもので、医療用の大麻は米国の半数近くの州や英国・ドイツ・ベルギーなどで合法化され、オランダでは嗜好品としても使用可能です。
大麻草の薬効は数千年前から知られており、各地で精神作用を宗教儀礼に利用したり、ローマやギリシアでは外傷などの炎症を抑えるために、インドでは悩みや苦しみから解放するために用いられていました。15世紀にはてんかん発作に効果があったという記録もあります。20世紀半ばから大麻の薬理作用の研究が始まり、主成分はカンナビノイドと総称され、疼痛や吐き気を軽減し、痙攣を抑制する効果が証明されました。その他にも、血糖低下・抗菌・抗不安・癌細胞の増殖抑制などの作用が期待されています。
1980年代にはカンナビノイドの受容体が脳にあることが発見されました。大麻の薬効成分が体内にも存在することが分かり、アナンタマイドと命名され、母乳にも含まれていることが判明しました。これはモルヒネとエンドルフィンの関係に似ています。その後も研究は進み、2001年に米国医師会は大麻の医学的効用としてー①エイズ患者の消耗症の改善、②抗癌剤の副作用である嘔気や嘔吐の軽減、③緑内障に対する眼圧低下、④神経難病における痙性疼痛軽減、⑤鎮痛効果ーを挙げています。
大麻の副作用は意外に少なく、依存症は、ヘロイン・コカイン・覚醒剤とは全く異なり、アルコールやニコチンよりも低く、コーヒーと同等程度、禁断症状も軽度と考えられています。大麻が麻薬中毒の入口になるという説は、10年以上前に否定されています。健康被害という点では、タバコやアルコールより低いと考えてよいでしょう。効果は未知数ですが、少なくとも深刻な副作用がなく、低コストで使えそうであることからも、嗜好品はさておき、医療現場での使用は研究に値します。我が国でも昨年「日本臨床カンナビノイド学会」が設立され、特区制度を利用して医療用大麻の臨床研究を目指して活動を始めました。嗜好のために不正使用したのであれば、この元女優の行為は、大麻への偏見を助長し、研究を遅らせる以外に何もない愚かな行為です。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日第801号 平成28年11月15日(火) 掲載