新庄徳洲会病院

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掲載日付:2019.02.04

Vol.164 NHKさん、オムツゼロは簡単ですよ

 1ヶ月以上前になりますが、NHKテレビの夜7時のニュースで、新潟県の特別養護老人ホームの入居者で、日中にはオムツを付ける人がゼロになったことを取り上げていました。安易にオムツを使用することに疑問をいだいたベテランの介護福祉士が中心になって、施設全体で共通認識を持って進めた試みが成功したことは素晴らしいと思います。ポイントは以下の4つです。①便秘を防ぎ、体のリズムを整えるために十分な水分(1日1500mlを目標)を摂る。②食物繊維を多く摂るために、おかゆではなくご飯を提供する。③トイレに行く力をつけるために、体幹や足の力を鍛えるトレーニング機器を導入する。④トイレを習慣化するために、毎日同じ時間に1日3回トイレに誘導する。

 これをそのまま取り入れる人がいるかも知れないので、重箱の隅をつつくような指摘をします。適切な水分を取ることは重要ですが、心臓や腎臓に障害がある人には過剰になる危険性があります。食物繊維は便秘を防ぐためには有効ですが、もともと白米は穀物の中では食物繊維の含有量が少ないので、形態に関係なく食物繊維源としてはあまり期待できないはずです。そしゃくできる人はご飯のほうが良いのは当然ですが、介護度の高い人はできない比率が高いと思います。トイレへ誘導する効果は、排尿では期待できますが、便意がないのに便座に座ることは逆効果のような気がします。

 オムツを外す試みは素晴らしいことですが、勘違いしてはいけないのは、すべての人がオムツを外せるわけでないし、オムツをしている方が良い場合もあるということです。特別養護老人ホームの入居者は原則として要介護3以上で、この施設では定員約90人の半数以上が要介護4と5だそうです。排泄は介護度にかなり影響するので、要介護4以上の人が50人いる施設で、たとえ日中だけでもオムツを着ける人がいないというのは驚異的だと思います。ご飯を食べてトイレで排泄できる人が介護度4以上であるのはかなり珍しいはずだからです。

 短期間ですが私も亡父を家族と一緒に介護したことがありますが、一番大変だったのは排泄の世話でした。また、2年弱でしたが週に一度の当直中に夜の病棟のオムツ交換を2時間ほど手伝いましたが、看護師さんや看護助手さんたちの手際の良さには脱帽し、排泄の世話をすることがどれほど尊い仕事か教えてもらいました。オムツも進歩しており、うまく使えば、介護する人にもされる人にも非常に有用なことも実感しました。

 このようなオムツを悪者にする論法は、単純でわかりやすいのですが、オムツを使う介護はレベルが低いまたは努力不足と勘違いする人が出てこないか心配になります。また、自宅でオムツを使って介護している家族は、罪悪感を持つことにもなりかねません。オムツをゼロにするのは実は簡単です。この施設がそうだとは言いませんが、オムツが必要な人は入所させず、必要になったら退所させることです。オムツを減らす努力は評価されるべきですが、オムツをゼロにしたという結果だけを評価するのは間違っています。この番組では国際医療福祉大学大学院の教授と助教授の意見も紹介され、この試みの素晴らしさを強調していますが、彼らは介護の現場をどの程度見ているのでしょうか。新潟の地方局が作ったこのような企画を全国ニュースで、深い考察もなく得意げに流すNHKの姿勢は子供じみていると思います。

院長 笹壁弘嗣
平成31年2月4日


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