新庄徳洲会病院

menu

<

掲載日付:2017.02.15

Vol.139 リン(凛)のいた日々

 正月明けに愛犬リンが13歳9ヶ月の命を終えました。横浜のペットショップで一目惚れしたメスの豆柴です。中野孝次著「ハラスのいた日々」を読んで、飼うなら柴犬と決めていました。12年前に新庄に赴任した初めの6ヶ月間は、彼女と二人暮らしができたおかげで、孤独を感じずに済みました。美人で凛々しく、でも私の足の裏を舐めるのが大好きな、唯一無二の存在でした。

 3年前から左の目頭にしこりができ、だんだんと大きくなりました。悪性腫瘍だろうと思いましたが、私の知らない犬特有の病気で、治療できるものであればかわいそうだと思い、一度だけ獣医の診察を受けました。結果は予想通りで、診断も治療もかなりの手間と苦痛が予想されました。完治する可能性は少なそうです。人間でいうと後期高齢者、どう見ても悪性腫瘍、特に本人は困っていない、ということで検査も治療もしないことにしました。

 腫瘍はその後も大きくなり、出血することも増え、やがて左目が完全に塞がれてしまいました。犬にとって視覚というのは人間ほど重要ではないようで、片目になってからも食事や散歩は以前と変わりません。さすがに昨年秋からはあまり散歩もしなくなり、食事にもムラが出てきました。以前から私の勤務時間には、病院にいることが多く、犬好きの職員にかわいがってもらっていましたが、12月には小屋からも出たがらなくなり、自宅には週末だけということが多くなりました。

 1月8日の日曜日に病院に行くと、ふらつきながら立ち上がり小屋から出て私の傍にやってきました。少し餌も食べたので、これが最後のチャンスと自宅に連れて帰りました。水を飲んで、尿をする以外は寝たきりです。寒くないようにコンロで炭を起こして最後の時を一緒に過ごすことにしました。翌日の夕方、眠るように私の腕の中で昇天しました。妻と小学生の息子も一緒に看取ることができました。涙ぐんでいた息子は、何かを感じでくれたでしょう。翌日、病院の敷地にある桜の木の傍に葬らせてもらいました。世話になった職員も見送ってくれました。

 人間のように、何のために生きるかと悩むこともなく、運命に逆らうこともなく、ただ生きて、静かに死んでいきました。もっと優しくしてやったら、もっと良い飼い主に恵まれたらと後悔ばかりしていましたが、リンがいなくなって少しわかったことがあります。彼女は存在するだけで意味がありました。きっと生きとし生けるものは皆同じなのでしょう。春が来たら桜になって帰ってきてくれるような気がします。いつも以上に春が待ち遠しい今日此の頃です。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日第807号 平成29年2月15日(水) 掲載


menu close

スマートフォン用メニュー