新庄徳洲会病院

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掲載日付:2022.03.02

Vol.242 重症者が少ないのに死者が多くなる理由

 新型コロナによる死者が2月11日に累計で2万人を超え、22日には第6波の死者が3950人になり第5波を上回りました。冬場には感染に対する抵抗力が低下し、例年死者が夏場の1.4倍になります。死亡の多い季節に、感染力が強いウイルスと接触する人が増えたことが関係していると思いますが、専門家は、陽性者数が3倍に増えたことが主な原因だと主張しています。

 オミクロン株は、デルタ株より重症化率が低いだけでなく、重症者数も減少しています。死者が増えるのであれば、その前段階である重症者も増えるのが普通ではないでしょうか。しかし、2月25日現在、宮崎・大分・山形・青森の4県では昨年11月以降重症者がゼロにも関わらず、今年1月以降に4県合計で86人が死亡しています。また、北海道では重症者はのべ13人ですが、死者は215人もいます。このように重症者数と死者数の解離が非常に大きいのが第6波の特徴です。全国で重症を経ずに多くの人が死んでいるということは、無症状または軽症からすぐに死亡に至る人が続出したのでしょうか。もしそうなら、メディアはもっと大騒ぎするはずです。

 交通事故死でも癌死でも、死亡時点でPCR検査が陽性であれば、「コロナ死」に計上されます。東京都の死亡例を見ると、2月中旬では死亡日の当日と翌日に陽性であることが判明した人が全体の約半数を占めています。つまり、死ぬ直前まで新型コロナとは認識していなかった例が多いということです。また、死者の最も多い大阪府では、第6波で直接死因がコロナに関連するのは約60%、間接的に関わったのは約25%、死因がコロナ以外は約15%となっています。同様に死者の年齢は、60歳以上が97.1%、70歳以上が93.0%、80歳以上が72.4%を占めています。第5波では、81.0%・67.6%・43.5%なので、高齢者の割合が高くなっていることがわかります。つまりオミクロン株ではもともと寿命に近い高齢者が、癌や心疾患や認知症などが進行し衰弱して死亡する過程で、最後に新型コロナウイルスに遭遇した例が少なくないと解釈することができます。高齢者は死んでもいいとは言いませんが、未来ある若者が死の危険にさらされる病気でない点は福音と言えることであり、コロナ死が多いという理由だけで騒ぐ必要はありません。

 それよりも気になるのは、総死亡数が異常に増えていることです。新型コロナが流行し始めた2020年は、前年に比べて8千人以上総死亡数が減少しました。これは過去10年間なかったことです。21年は、その反動で高齢化が進むために死者は増えるだろうと予想はしていましたが、確定値ではないものの7万人以上の増加に転じることが確実視されています。コロナ死の約1.5万人以外で増加しているのは老衰や心血管系疾患です。大災害もなく、他に特殊な病気が流行しなかったことを考えると、昨年の新型コロナ対策が不適切であったことは間違いないでしょう。

 外出しなくなり筋力が衰え転倒して骨折し、会話しなくなり飲み込む力が衰え肺炎になり、精神活動が減少して認知症が進んだ高齢者は少なくないはずです。また、ワクチン接種が総死亡増加に関係している可能性も考慮すべきで、アレルギーや心筋炎などの直接的な副反応以外に、免疫系への影響は慎重かつ長期的にフォローする必要があります。政府も専門家もメディアも、「行動制限とワクチン接種で高齢者を守れ」と言いますが、新型コロナに罹らないことだけが、高齢者を守ることではありません。施設や病院が面会禁止で家族に会えず、命を維持する経管栄養を行うために身体を拘束されることが人間らしい生き方とは思えません。高齢者は遠からず死ぬという現実に向き合い、理不尽な死を最小限にし、残された時間を有意義に過ごせるように、高齢者を守るということの意味を、冷静にそして真剣に考える時だと思います。


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