新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.01.06

Vol.206 年間の死亡者が減っても医療は崩壊する?

 ある県庁所在地の基幹病院の循環器センター長である友人から、病院職員が一人PCR検査で陽性になったので濃厚接触者である外科医2人が2週間の自宅安静が命じられ、年末年始の緊急手術ができなくなったという話を聞きました。現行のルールでは、無症状の陽性者は1週間で勤務が可能になりますが、濃厚接触者はこれから発症する可能性があり、より長い休養が必要なのです。先月のテレビニュースでも都内の公的病院の呼吸器内科部長が、同じような話をしていたそうです。濃厚接触者が53人になり、全員にPCR検査を行ったところ陽性者は1人だけでしたが、2週間の自宅安静が一度に52人も出たため一部の病棟を閉鎖し、外来・救急・手術も制限せざるを得なくなったそうです。これは新型コロナが二類感染症以上の扱いを受けているからで、インフルエンザと同等に扱えば、このようなことはなくなり、医療崩壊が防げると彼は訴えたようです。医療崩壊は、通常の医療体制であれば、救えるはずの命が救えなくなったり、予後を悪化させてしまうことです。大病院といえども一度に50人以上のスタッフがいなくなると医療が崩壊するのは当たり前ですが、これはやむを得ないことなのでしょうか。

 濃厚接触者が感染源になることはあり、病院で起これば集団感染により多数の死亡者がでることもありえます。私自身もこれを最も恐れていますが、これまで集団感染で多数の死亡者が出たのは、昨年3月に都内で40人以上の死亡者が出た事例だけで、その病院は新型コロナの診療を行っていない病院だと思います。現行のやり方で医療が崩壊しないならそのままでよいでしょうが、起こっているのであれば、対応を考えなければなりません。医師や看護師を増やすには10年単位の時間が、病院を新設するにも年単位の時間が必要です。すぐにできるのは、今ある医療資源を有効活用するしかありません。ということは、皆で負担を分かち合うしかないのです。

 私は、新型コロナをインフルエンザと同等に扱うべきだと思います。負荷がかかっている基幹病院は重症の患者を中心に、それ以外の中小の医療機関は中等症以下の患者を、無症状や軽症の人は自宅療養を基本として診療所で診療し、重症化には迅速に対応できる体制を整備します。重症者への医療提供も新型コロナだから特別に濃厚にする必要はなく、もともと全身状態の悪い超高齢者への集中治療は控えるべきです。過剰な感染予防対策を止めると診療も効率的に行えます。保健所は、濃厚接触者の追跡を減らすことで、軽減される労力を重症化への対応に費やす事ができます。そして医療を受ける側には、無症状でも心配だからと病院に来ることは止め、感染者を誹謗する言動は厳に慎み、地道な感染対策を実行することを求めます。

 先日、2020年1月から10月までの我が国の死亡者数が発表されましたが、前年より1万4千人減少しています。現在の新型コロナの死亡者数を考えると、残る2ヶ月でこの結果が逆転することはないでしょう。死亡者は過去10年で約18万人増加し、一昨年は約138万人なので、昨年は140万人弱でも不思議はないのです。自殺者が増えそうなのに、死亡者は2万人くらい減少しそうなのは、世界的にも珍しいことでしょう。一昨年のインフルエンザによる死亡者と昨年の新型コロナ関連の死亡者は同等です。安倍前総理は退任時に二類相当の指定を外すことを想定していましたが、菅総理は感染拡大によりその機を逸してしまいました。田村厚労相はさらに1年延長する意向のようです。指定を外すことにより、感染が広がることはあるでしょうし、死者も増えるかもしれません。どちらの道を進んでも、必ず死者は出て、必ず悲劇も起こります。どちらがより少なくできる可能性が高いかを考えると私は外すほうだと思います。


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