新庄徳洲会病院

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掲載日付:2008.02.15

Vol.29 タバコで医療費削減?

 タバコの健康への悪影響はいろいろ指摘され、大都市のタクシーまで禁煙になってきました。最近では喫煙者かどうかが、尿検査でわかるようになり、米国の企業の中には、これを採用試験に用いて、医療費の負担が増える喫煙者を不採用にするところさえあるそうです。日本政府も、健康増進はもとより、医療費抑制のためにも禁煙を奨励しています。確かにタバコを吸わないと、寿命は伸び、病気になりにくくなります。そのため医療に掛かる費用は節約できそうです。ところが、ユウ・ヘイキョウ著『「改革」のための医療経済学』を読むとこれが全くの誤りであると書かれています。

 そこには以下のようなことが書かれています。タバコが原因である病気が減少すると確かに短期的には社会全体の医療費は削減されますが、禁煙によって早死にを免れた人は、長生きします。長生きはしてもいずれは病気になり、医療費を使うだけでなく、年金受給の期間も延長します。したがって長期的には社会全体で医療費と年金支出を上昇させる可能性が高くなるという信頼性の高い研究結果が欧米にはいくつもあるということなのです。

 また、70歳以降になると、医療費が急に増加するのは死ぬ直前で、それ以前の健康状態とは無関係である、したがって健康な高齢者と病弱な高齢者を比べると、死亡時までの総医療費はむしろ前者の方が高くなるととも書かれています。高齢者が増えると医療費が増えるといわれていますが、これも実は怪しいようです。というのは、高齢者の占める割合が増えれば高齢者の医療費が増えるのは当然で、高齢者だからより医療費が増えるのではないのです。そして必然的に増える分も短期的であり、長期的にどうなるかは予測できないようです。

 日本は変化のスピードが遅い国と思われていますが、現在我が国で進められているいわゆる「医療制度改革」は、欧米と比較しても猛烈な早さで行われています。しかも、病床の削減・病院の統廃合・診療報酬の改定・混合診療の推進すべてが医療費の削減を目指しています。しかし、先進国の多くが医療費の高騰に悩んでいますが、それに対して効果的な対策が講じられたことは残念ながら今のところありません。笑えない冗談ですが、タバコを安くしてみんなでたくさん吸って早く死ぬ人を増やすことの方が、現在進められている政策よりも優れているかもしれません。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第591号 平成20年2月15日 掲載


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