新庄徳洲会病院

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掲載日付:2020.07.17

Vol.193 マスクの地位は向上したけれど

 一時は在庫が底をつきそうだった医療用マスクも、値段は以前の数倍になったものの、ようやく一息つける状態になりました。春先までは自宅近くのドラッグストアには、マスクを買うために早朝から長蛇の列もできていました。中国に依存しすぎて、国内の生産能力がなかったことが大きな要因ですが、今回のコロナ騒ぎで世界的にマスクの評価が180度とは言いませんが、160度くらい変わり、需要が急増したことも関係しているようです。マスクには、咳やくしゃみによる飛沫を防ぎ、乾燥した冬には保湿効果もあり、自分の鼻や口に触れないので接触感染を抑える働きもありますが、一般社会ではアジア人特有の習慣で、欧米では奇異に見られていました。実際、N95という特殊な医療用マスク以外は、ウイルス感染を防ぐ効果はないというのが医療界の常識でしたが、最近では、通常の不織布製の医療用マスクにも新型コロナの感染予防効果があると世界保健機関(WHO)も認めるようになりました。

 これは香港大学の実験結果の影響が強いようです。新型コロナウイルスに感染させたハムスターを入れたケージを、健康なハムスターのケージの隣に設置し、感染したハムスターの側から健康な側に風を送ったところ、1週間以内に15匹中10匹(66.7%)がウイルスに感染しました。ところが、感染した側のケージに医療用マスクで作った障壁を取り付けると感染率は16.7%に、健康な側に付けても33.3%に低下しました。つまり患者がマスクをする効果は大きい(1/4に減少)だけでなく、健康人もマスクをすると感染しにくい(1/2に減少)ということになりました。さらに、マスクありの状態で感染したハムスターは、マスクなしに比べ体内のウイルス量が少なく、感染しても重症化や死亡リスクは低くなる可能性もあると結論しています。

 これまで非感染者がマスクをすることで、カゼやインフルエンザが予防できるという研究報告はなく、マスクは感染者がつけることで、周囲への広がりを多少防ぐことができる程度と考えられていましたが、今回の実験でそれがひっくり返りました。今では多くの国で、感染者のいない状況でもマスクの使用が推奨されるという手のひら返しのような方針転換が起こったのです。その結果、各国でマスクの需要が急増し、品不足と価格高騰が深刻化しました。

 我が国でも、マスクをすればソーシャルディスタンスは不要と言うウイルス学者もいますが、私は今でもマスクの効果は限定的だと思っています。それは適切なマスクを適切なタイミングで適切につけることが容易ではないからです。まず、布マスクでは今回の実験のような効果は証明されておらず、目の粗さを考えると到底期待できないでしょう。次に、消費量増加による品不足と価格上昇によって、再使用という不適切な使用法が増えることが予想されます。実際、不足したときは私も節約のため台所洗剤で洗って再利用していました(看護職員は患者との距離が近くなることが医者よりも圧倒的に多いので、今までどおり適切な使用を指示していましたが…)。更に、使用方法も問題です。不織布製のマスクで鼻から顎までを隙間なく覆い続けることはそんなに簡単ではありません。顎マスクは論外で、鼻の穴が出るのもNGですが、特に鼻と頬の隙間をなくすことは難しいと思います。実際に安倍首相を見ても、マスクは布製で小さすぎます。高温多湿の季節には、マスクをすると息苦しくなり、熱中症の危険も増すのでなおのことです。人混みや不特定多数の人と会話する時など、適切につけないといけない状況を判断して実行することが重要ですが、その都度新たに使い捨てのマスクをつけることは簡単ではありません。私のようないい加減な人や手技に自信がない人は、そういう環境を避けるほうが賢明かもしれません。


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