新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.05.17

Vol.215 マスクから子供を守る

 大型連休明けの午後、山形市内の中学校の前を通り床屋へ行く際に、生徒がマスクを付けてサッカーやテニスをしている姿を見かけました。25℃を超えて蒸し暑い日にマスクをしてスポーツをするというのは、熱中症や酸素欠乏の危険があります。山形市は独自に緊急事態宣言を出しており、県の教育委員会は、中高生には「部活動時はマスクを着用し、マスクを着用しても運動できるような負荷にする」よう指導していました。山形市の緊急事態宣言は4月25日で解除されていますが、この指示が継続されているかは検索した限り不明でした。ただ、4月21日付けで山形県のホームページに、市民からの質問とそれに対する回答が掲載されています。

 問:「山形市に緊急事態宣言が出されている中、子どもの通う高等学校の部活動ではマスク着用などの感染防止対策が徹底されないまま活動をしています。県民の命と健康を守る立場の県として、どのようにお考えか、高校生の部活動に対して感染防止対策を徹底させる考えがあるのかどうか聞きたいです。」
 答:「当該校に、改めて感染防止対策の徹底について指導し、注意喚起したところです。」

 もともと学校での運動におけるマスクの着用については、昨年5月にスポーツ庁から「学校の体育の授業におけるマスク着用の必要性について」という通達で、「運動を行う際にマスクを着用する場合、十分な呼吸ができなくなるリスクや熱中症になるリスクが指摘されており、(中略)マスクの着用は必要ありません」とされています。たとえ緊急事態宣言下であってもスポーツ庁の通達が断然正しいと思います。今回のコロナ騒動を象徴する間違った行動だと思います。

 マスクは適切に使えば感染リスクを下げる可能性がありますが、時と場合により弊害が大きくなります。今回の事例はその典型であり、行政と学校と保護者で子どもを虐待しているようなものです。4月末に文部科学省から発表されたデータでは、小中学校生の感染経路は家庭が圧倒的多数で、学校は5%(小学校)〜7%(中学校)に過ぎません。また、未成年の新型コロナによる死亡者はもちろんのこと重症者も未だ0のままです。このような状況で若者にマスクを強要することは、不合理としか言えません。たしかに若者が高齢者に家庭で感染させるリスクはありますが、それを最小限にするのであれば、接触を最小限にし、家庭内でこそマスクをすべきです。

 ヒトは哺乳類の中で顔の毛が非常に薄く、表情がわかりやすい生き物です。また、手が発達したことで直接噛み付いて攻撃する必要がなくなり、顔の作りが軟らかくなり表情が豊かになりました。さらに霊長類の中で例外的に白目が露出して、視線が他からわかりやすくなりました。これは捕食者の攻撃を受けやすく、生存確率を下げるはずですが、ヒトは他の哺乳類を圧倒する繁栄を遂げました。それは、共同体を作ることができたからです。そのために、言葉以前に仲間の表情を読むことが重要だったのです。ヒトの表情に大きく関わるのが目と口であることは、ニコニコマークのイラストなどで目と口が必須であることからもわかります。ある市役所で職員がマスクを付けているとよそよそしく感じるという市民の指摘に、名札に顔写真を付けたところ評判が良くなったという話があります。役所の窓口ではソーシャルディスタンスが適切な距離なので、この程度の対策でよいのですが、親しい仲間になるには不十分です。マスク習慣が染みついた子どもたちは、どんな大人になりどんな共同体を作っていくのでしょうか。保護者が感染を恐れすぎ、学校や行政が批判を恐れて感染経路にはならないことを至上命題として行動するのではなく、子供たちが本来のヒトとして豊かな表情を見せられる様に、冷静になるべきです。


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