新庄徳洲会病院

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掲載日付:2020.12.16

Vol.204 安易な休校には反対

 新型コロナの感染が広がり、私の近隣の中学校にもPCR検査陽性者が出たために、その翌日から一斉休校になりましたが、連休の直前であったため、実質2日で再開されました。10代への感染も全国的に広がり、各地で同様の措置が行われているでしょうが、休校の感染抑制効果と社会への悪影響を慎重に比較する必要があります。今のところ10代の検査陽性者は13000人弱で、死亡者は0、重症者は1で、死亡・重症はもちろん陽性者数も他の年代を大きく下回っています。現状で陽性者が一人出ただけで一斉休校が必要でしょうか。

 我が国は季節性インフルエンザでも学校閉鎖や学級閉鎖が行われる数少ない国の一つですが、流行の程度や致死率により地域ごとに決めるべきであると考えられています。2009年の新型インフルエンザの際に関西で行われた大規模な学校閉鎖では、経済的損失もさることながら、風評被害が大きく、子供たちが教育の機会を奪われることに見合う利益は少なかったと厚生労働省も総括しています。インフルエンザのように小児が罹患しやすい病気でも、休校の効果は限定的と考えられています。前政権は2月末に全国の小中高等学校に一斉休校を要請し、3月初めからほとんどの地域で実施されました。この時点で、新型コロナはインフルエンザに比べて子供の感染が少なく、重症化はほとんどないことがわかっていたことを考えると、流行地域から始めるのであればまだしも、検査陽性者が出ていない地域にまで広げたことは愚策というより暴挙と言えます。

 日本小児科学会では、小児の新型コロナに対する知見を以下のようにまとめています。「①小児が占める割合は少ないが、その割合が増えてきた。②学校や保育所におけるクラスターは起こっているが、社会全体から見ると多くなく、多くは家族からの感染である。③小児は成人と比べて感染しにくい可能性が示唆された。④ウイルスの排泄量は、成人と同程度である。⑤成人例と比べ軽症であり、死亡例はほとんどない。⑥ほとんどの小児例は経過観察または対症療法が選択されている。⑦小児では抗体が検出されるようになってもウイルスの排泄が続いていることがある。⑧海外の数理モデリング研究や系統的レビューでは、学校や保育施設の閉鎖は流行阻止効果に乏しい可能性が指摘されている。⑨教育・保育・療育・医療福祉施設等の閉鎖や大人(養育者)のストレスが小児の心身に影響を及ぼしており、流行による周りの環境変化に関連した健康被害が問題となっている。」新型コロナによる休校でも、学校へ陽性者を教えろという犯罪級の非常識な問い合わせがありました。この機会にオンライン学習の環境を整備するのはよいことだと思います。学校を地獄と感じ不登校を続けたほうがよい子供たちが、学ぶ機会を失わずに済む手段にもなります。しかし、多くの子供達は触れあって、じゃれ合いながら大人になるのです。その機会を奪うことのリスクに見合うような伝染病とは到底思えないのです。

 文部科学省のホームページには、「学校の設置者は、感染症の予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部又は一部の休業を行うことができる。」とあります。二類感染症である新型コロナは、基準が定められているインフルエンザよりも厳しく運用されています。家庭内で高齢者への感染源になることも、大人よりは少ないことを考えると、大学生も含めて若者には規制をかけるべきではありません。現状は想定内のはずで、休校という手段以外に対策ができていないとしたらそれは怠慢です。休校を指示するのは「学校の設置者」ですが、市立学校であれば、市長・教育委員会・学校長の3通りの解釈ができるそうです。実際どういう指示系統で行われているかは知りませんが、大人の責任逃れの目的で実施されることがないことを祈ります。それが高度経済成長の恩恵に預かってきた我々の世代が、若者に果たすべき責任ではないでしょうか。


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