新庄徳洲会病院

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掲載日付:2022.02.10

Vol.239 重症者数のカラクリ

 1月末に地上波のテレビニュースで、「新型コロナの重症者が前週に比べて1.8倍になった」という報道がありました。確かに厚労省のホームページを見ても430人から767人に増えていますが、767人の内訳を都道府県別に見ると半数以上の460人が大阪府なのです。大阪に大異変が起こったのでしょうか。これにはカラクリがあります。

 「重症者」には国が定めた基準とは別に、各都道府県が定めた独自の基準があります。どちらも「人工呼吸器管理をしている患者」と「ECMO(人工肺)を使用している患者」は共通していますが、国の基準には「集中治療室(ICU)等での管理が必要な患者」という条件もあり、「ICU等」とは数種類の病床が規定されています。一方で都道府県の基準は独自に決められ、東京や大阪では、人工呼吸器とECMOの管理下にある患者のみで、しかも厚労省のデータには、東京は独自基準の22人、大阪は国基準の460人を用いています。他県のデータも統一されていません。このような数字を2年以上も使い続けている厚労省はどうなっているのでしょうか。また、注釈をつけることなく情報を垂れ流すだけのメディアは、バカか悪意の塊かのどちらかです。ちなみに、この時点で全国で人工呼吸器またはECMOが使用されていたのは150人程度のはずです。

 では、なぜこのような混乱が起こるのでしょうか。一番大きいのはICUにいる患者が必ずしも重症とは限らないということです。通常はICUでは重症患者を診ますが、新型コロナが2類感染症であるため、区画を分けて管理する必要があり、ICUにコロナ患者を集めたほうが効率がよいという場合があります。そのため、医学的には重症でないがICUにいるということが起こるのです。さらに、一昨年夏に国の基準が「ICU」から「ICU等」に変更されたため、ハイケアユニットなどのICUより軽症を扱う病床の患者も算定されるようになったことも大きいと思います。「重症者」の定義が国レベルで変更されたということは、診療報酬が変更されたということで、これにより病院の収入は2〜3倍になりました。そのため、「重症者の病床」へ患者を入院させるようになった病院は少なくないはずです。

 結局は医療も金次第かと言われそうですが、その指摘は結構当たっていると思います。今回のコロナ騒動で赤字から黒字に転換した医療機関はかなり多いのです。この他にも、コロナ患者受け入れのための病床を空けておくために、「空床補償」というものもなされていますが、総額で1兆円を超えています。必死で診療にあたる医療機関を救うという名目で、多くの税金が投入されました。コロナ病床を確保しその補助金は手にしながら、いざ患者の受け入れ要請があると断る「幽霊病床」というものもありました。高名な先生が理事長を務める病院でも、300億円以上の補助金を受けながら、30%以上が空床だったという事件も話題になりました。私の病院は、ほとんど新型コロナの影響を受けていないので、大きな変化はありませんが、一部の医療機関にとっては今回の騒動はまさに「コロナバブル」でもあったのです。確かに一部の病院の一部の医療従事者は本当に大変な苦労をしたと思いますが、ちゃっかり稼いだ奴もいるのです。それが明らかになったとき、医療従事者に対する国民の感謝や尊敬の気持ちが、一気に逆転するような気がします。財務省は、それを好機に診療報酬の引き下げ圧力を強くするだけでなく、増税のチャンスと動き出し、真面目な医療機関の中には経営が破綻し、増税によって苦境に陥る国民も増えるでしょう。厚労省は議論するための数字に整合性を持たせることを早急に行うべきです。メディアは自らが報道している内容をキチンと検証し考察を加えることです。そして、医療機関は本来の患者を診療するという業務に真面目に取り組まなければなりません。


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