新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.03.24

Vol.211 変異株の何が問題か?

 新型コロナウイルスで、イギリス型や南アフリカ型やブラジル型などの名前がついた変異株が話題になっています。もともとこのウイルスはSARS-CoV-2、病名はCOVID-19が正式名称で、世界保健機関(WHO)が最近になり地名を付けない方針をとり、中国ウイルスとも武漢肺炎とも呼ばれていません(台湾では武漢肺炎と呼んでいるそうです)。しかし、エボラ出血熱やジカ熱のように地名が残っているものもあり、WHOが仲のよい中国に忖度して武漢肺炎としなかったという話もありますが、変異に関しては通称として地名が使われています。

 それはともかく、ウイルスの変異は増殖する際に起こるコピーミスのようなもので、一本鎖のRNAウイルスである新型コロナウイルスでは起こりやすく、想像以上に多くの変異が起こっているはずです。これは自然現象であり、人間の力で抑制することはできません。変異を起こしたウイルスは必ずしも感染力が強いのではなく、感染力が強いものが生き残りやすいのです。毒性は強くなりすぎると、感染が広がる前に人が死んでしまうので、伝染しにくくなります。したがって変異を繰り返すと感染力が強く毒性が弱いものが生き残りやすくなります。もちろん、ウイルスが何らかの意図を持って変異を起こすことはありません。同じ変異が異なる地域で同時に起こることもあり、イギリス型は本当にイギリスだけで起こりイギリスから輸入されたかどうかは簡単には決められないはずです。

 もっとも、抗ウイルス薬が使われると、それに耐性のある変異を起こしたウイルスが生き残り易くなります。同じようにワクチンによって抗体ができると、それにより中和されない変異を遂げたウイルスが残りやすくなります。つまり人間が頑張るほど変異は起こりやすくなる傾向はありますが、変異を起こりにくくする術を我々は持っていません。要するに変異株は人智の及ぶところではないのです。学問的には、感染状況の変化や予防や治療の効果との関連を調べることは重要で、実際にある種のワクチンが南アフリカ型には効果がないことや、通常のPCR検査では陰性になってしまう変異株があることもわかっていますが、個人個人が取る行動にはほとんど影響を与えません。変異株の患者の専門病棟を持つ病院があるそうですが、治療は変異株かどうかで変わることはありません。明らかに毒性が強力であるなら、その意味はあるかもしれませんが、現段階ではやりすぎとしか思えません。治療は新型コロナか否かや変異株か否かではなく、患者の重症度により決められるものです。変異株を強調するだけの報道は有害無益で、研究は専門家に任せて、我々の生活に影響する情報をわかりやすく伝えるのがメディアの役目です。

 一人ひとりが努力して変えられることは限られています。しかも、その行動が最終的にある個人や人類全体に利益をもたらすかどうかは短期的には評価できないことのほうが多いと思います。医学の進歩と医療の発達により、ヒトは多くの利益を得ましたが、負の側面も忘れてはなりません。抗菌薬の登場により細菌感染症は制圧できると考えられていた時代もありましが、薬剤耐性菌による害が深刻化し、我が国では8000人が、米国では年間3.5万人以上が、欧州では年間3.3万人が死亡していると推定されています。2050年には耐性菌に関連した死亡数が世界全体で年間1,000万人に達する可能性があるとされています。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が有名になりましたが、最近ではフルオロキノロン耐性菌が増加しています。風邪に対して安易に抗菌薬を使用してきた影響が大きいと思います。自然を制御するという西洋思想は多くの幸いと同時に災いももたらしました。自然が一番だとは思いませんが、変異株など気にせずに、ほどほどに生きることが大事だと思います。


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