新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.08.19

Vol.225 2類指定を見直すだけでは…

 8月9日に、感染症法上での新型コロナの運用について、厚生労働省が見直しに着手したと報道されました。感染症法では、感染力や致死率などをもとに1~5類と「新型インフルエンザ等」の6分類があります。1類に近づくほど厳しい措置がとられますが、新型コロナは、結核などの2類相当以上に位置付けられ、医療機関は厳格な対応を強いられ、自治体は症状がない人も含めた入院勧告や就業制限、濃厚接触者や感染経路の調査に当たっています。

 医療が崩壊するのは需要が供給を上回るときです。これまでの政策は緊急事態宣言などによって、感染者を減らす、つまり医療の需要を減らすことに多くの労力を使ってきましたが、医療体制を整備し医療の供給を増やす方は進んでいるとは言えません。予算も1兆円以上が使われずにいるようです。確かに医療体制に手を付けることは大変でしょうが、国難とも言える状況になってもできないのでしょうか。私は1年以上前から2類感染症の指定を見直すべきだと言ってきました。それは、限られた医療機関に患者が集中し、そこでは過剰とも言える感染防御措置を行い、そのために一握りの医療従事者に負担が集中して疲弊し、その家族までがいわれなき差別を受けていることを問題視したからです。また、保健所の負担を軽減するには、感染経路や濃厚接触者の洗い出しは限定し、疫学調査は定点観測として、変異株の調査はしっかり行い、患者の振り分けは医療機関に委ねればよいのです。自分の仕事に価値を見いだせないまま仕事に忙殺される保健所職員の負担は、医療従事者より大きいかもしれません。

 指定を見直すことは賛成ですが、今の感染状況ではなかなか実現しないだけでなく、問題の解決にもならないような気がしてきました。新聞報道によると、東京都のモニタリング会議では、「制御不能な状況」「自分の身は自分で守る行動が必要」「医療供給体制は深刻な機能不全」と専門家が述べています。確かにNHKの報道では、都内の患者が120の医療機関に断られた事例や埼玉の医療機関へ搬送された事例も紹介されています。しかし、数字の上では現状で医療崩壊が起こるとはどうしても思えないのです。東京には5967のコロナ病床と392の重症病床がありますが、この報道の直後である8月12日現在、入院患者は3668人、重傷者は218人です。どちらもこれまでで最多ですが60%前後です。災害級の状況でもこのような余裕があるのでしょうか。

 東京都の場合、新型コロナの重症病床には1床当たり2000万円弱が国から補助されます。診療報酬も大幅に増額され、さらに空床の場合でも1日あたり7万円が支給されるという優遇政策がとられています。つまり、重症病床が10床あると、1ヶ月間患者がゼロでもそこから2000万円程度の収入があるのです。そのような重症病床を申請しながら、本当に必要な今の時期に機能しないのであれば、その理由を行政は開示し、その背景をマスコミは取材すべきです。万一、医療機関の怠慢であれば、これまでに得た補助金を返還しなければ筋が通らず、「結局、医者は金のことしか考えていない」という医療不信を助長するだけです。医者がいつまでも見知らぬ人から感謝されると思っていたら大間違いです。すぐにできることは、今ある医療資源を最大限に活用することです。開業医にも、中小病院にも、大病院にも、能力に応じてできることはまだまだあるはずです。各々が最大限に役割を果たすために、2類の見直しが必要なのです。感染が拡大しているとはいえ、現在の我が国の陽性者は英米の1/3以下、死者は1/9以下です。冬にはもっと大変な状況になる可能性もあります。医療従事者はもちろん、行政も国民も、この病気と長く、そしてうまく付き合うために、ある程度リスクを受け入れる覚悟を持たねばなりません。2類指定を見直すのはあくまでスタートであり、全てが解決するゴールではありません。


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