新庄徳洲会病院

menu

<

掲載日付:2019.01.07

Vol.163 新しい抗インフルエンザ薬は使うべきか否か

 インフルエンザの流行が始まりました。今回は治療について考えてみましょう。原則は安静と水分補給で自然に回復するのを待つことです。その間に使う解熱剤としては、安全性の高いアセトアミノフェンがお勧めですが、作用は弱いので物足りなく感じるかもしれません。ボルタレンやポンタールなどの消炎鎮痛剤は強力ですが、インフルエンザ脳症を重症化させることがあるため使われなくなりました。細菌やウィルスは熱に弱く、発熱すると生体の免疫能も高まるので、熱を下げることに執着すると、かえって病気を長引かせることがあります。解熱剤を使って、仕事を続けるのは論外です。

 抗インフルエンザ薬として初めて使われたのは、アマンタジンというパーキンソン病に使う薬ですがA型のインフルエンザにしか効果がなく、薬剤耐性ウィルスも増えたため今では使われません。現在主に用いられているのはノイラミニダーゼ阻害薬と呼ばれるもので、内服と吸入と点滴があります。点滴がよく効くと考える人がいますが、効果は同等です。内服ができない入院患者さんには使用することがありますが、わざわざ外来で点滴を受けるのは愚の骨頂です。患者にとっては、病院のような環境の悪いところに長居するのは禁物で、医療側にとっても、点滴を行うための人員と場所を確保する負担が増えます。昨シーズン最高の253億円を売り上げたイナビルという吸入薬は、1回吸入すれば終わりという便利なものですが、最近の海外の研究でプラセボと差がないという結果が出てしまいました。つまり、効かない薬ということです。私は最も使用経験のあるタミフルを処方します。若年者の異常行動との関連も一応否定されました。

 このような中で、新しい抗インフルエンザ薬が発売されました。ノイラミニダーゼ阻害薬は細胞内で増殖したウィルスが細胞外に出るのを抑えるのですが、新しい薬はウィルスの増殖そのものを抑えます。1回の内服で済むこともあり、昨シーズン末に発売され2週間で24億円を売り上げ、今シーズンはかなり使用されることが予想されます。ところがこの薬の有効性は、大人でタミフルと同等、子供では不明で、安全性についてもよくわからないというものです。治療に要する費用はタミフルの2倍弱ですが、タミフルはジェネリックも出たので、その差は3倍以上になりそうです。意外なほど早く承認されましたが、このような薬に飛びつく必要があるのでしょうか。今のところ当院ではこのゾフルーザという薬は採用していません。

 実は、抗インフルエンザ薬を使わないという考え方もあります。発症後48時間以内に使用しないと効果はなく、その効果も発熱期間を1日縮める程度で、吐き気などの副作用も1割程度に見られます。薬を使わないのであれば、検査を受ける必要性も下がります。現在のワクチンの効果は20-60%程度と言われていますが、抗インフルエンザ薬よりはよさそうです。ワクチンを早めに受けて、体力を落とさないように心がけ、軽症では医療機関にはかからないという選択肢はかなり有力なのです。
院長 笹壁弘嗣
平成31年1月7日(月)


menu close

スマートフォン用メニュー