Vol.218 看護協会と看護職との微妙な?関係
東京五輪の医療ボランティアとして医師200人と看護師500人が募集され、コロナ騒動の中、大方の予想に反して、医師は約2倍の応募がありましたが、私は、医者には定員以上の応募があると思っていました。コロナ騒動に巻き込まれていないスポーツドクターやそれを目指している者は、時間があり無給でも喜んで参加したいと思う者がかなりいるはずだからです。その一方、看護師の応募状況は検索してもわからないのですが、辞退者が出たという報道が散見されます。
看護師(国家資格)や准看護師(都道府県知事からの免許)の資格を持っているのは約220万人で、うち実際に業務に携わっているのは約150万人です。差し引きの約70万人は、潜在看護師(国の定義では65歳未満)と呼ばれています。日本看護協会は、保健師・助産師・看護師・准看護師の職能団体であると同時に、日本医師会と同様に複数の国会議員を擁する政治圧力団体でもあります。会員数は現役看護職の約半数にあたる約76万人で、大部分が病院勤務です。個人の医療機関や派遣で働く人は、会費を払うメリットがないので入会しないのでしょうか。
五輪への派遣だけでなく、今回大阪で設立したコロナ専用病院でも看護協会を通して募集し、当初の応募資格に看護協会の会員という条件があったことが、看護師を集めることが困難だった一因ではないかという意見もあります。協会に所属している看護職は、日々の仕事に追われて急に動ける人は少なく、まして五輪ではボランティアです。日本看護協会は各都道府県の看護協会に参加を要請していますが、潜在看護師を含めると看護職の2/3は会員ではありません。菅首相も潜在看護師からの参加を想定していたようですが、多忙な1/3に対して働きかけるのが有効でないことは明らかでしょう。
医師や歯科医師や薬剤師には、就業しているか否かに関わらず2年に1度の住所や連絡先の届出義務があり、違反すると罰金まで課せられますが、看護職員は、資格取得時に氏名・生年月日・本籍地などを登録するだけで、住所や就業状況は登録の対象になっていません。看護協会は各都道府県に「ナースセンター」という部署を作って退職時に情報を登録するようにしていますが、登録は任意のため、全国で13万人に留まっており、実態を把握できているとは言えません。
日本看護協会には年会費5000円が必要で、それ以外に都道府県の看護協会の会費があり、例えば山形県では合計すると年14000円が必要です。山形県看護協会会館は3階建ての立派な建物で、さらに平成26年には訪問看護会館も隣接して新築されましたが、このために会員には寄付金も求められます。看護協会が会員を増やしたいのであれば、安くない会費の負担に見合うメリットが必要です。「ナースセンター」では会員・非会員を問わず無料で職場の紹介を行っていますが、当院では「ナースセンター」を通して入職するのは非常に稀で、ほとんどが民間業者を経由です。病院から業者への支払いの一部が看護職に還元されるので、看護協会の手数料が無料であることはメリットになりません。日曜祝祭日は休館で、情報も質量ともに劣っているようで、民間との差は挽回不可能なレベルのような気がします。箱物はいらないとは言いませんが、もっとITに詳しい優秀な人材を高給で採用し、民間に先駆けてシステムを作るべきでしたが、非営利であることの弱みなのでしょうか。確かに、コロナ接触アプリのCOCOAが何ヶ月も機能せず、政府や厚労省でさえもITゼネコンに手玉に取られている現状を考えると、看護協会が民間の人材派遣業者と対等に戦うことができないのは当然かも知れません。このようにして、医療は民間の市場原理に食い荒らされ疲弊していくのでしょうか。