新庄徳洲会病院

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掲載日付:2010.02.15

Vol.44 開業医は儲け過ぎか?

 昨年10月に「開業医の年収2522万円、病院勤務医の1.7倍」という記事がマスコミを賑わせました。一般の方は「開業医は儲かるなあ」とか「病院勤務医のほうが大変なのにかわいそう」とか思われるかもしれません。しかし、この時期にこのような数字が出されたことには訳がありそうです。

 我が国の医療政策の根幹をなすのは「医療費削減」です。これまでは病床を減らすことで医療費を抑えてきたのですが、「医療崩壊」が叫ばれこれ以上は病院を締め付けられなくなりました。そこで対象を開業医に向けるために、儲け過ぎだから厳しくされて当然という雰囲気を作ろうとしているように思えてなりません。実際、来年度の診療報酬の改訂で開業医の再診料が引き下げられようとしています。

 上の数字にはいろいろなトリックがあります。まず、平均値というのがくせ者です。例えば、医者が10人いて、うち9人の年収は1000万円で、残り1人が 1億1000万円とすると、平均は2000万円になります。少数であってもとんでもなく大きい数字が入ると、平均値は大きくずれてしまいます。また高額の年収を得ている開業医も、人の何倍もの仕事をしていることがあり、それは不当とは言えません。悪徳な開業医は、1人でもいるとマスコミが大きく取り上げるので印象に残りやすいという面もあります。一方、楽をして儲けている勤務医も少ないながらいます。

 次に、開業医は勤務医を経験しているので、年齢は高くなります。一方、勤務医には経験の浅い医師が多数含まれるので、そもそも全体で比較すること自体がナンセンスです。実際、病院長クラスの勤務医と比べると逆転します。

 さらに、年収2522万円といっても毎月200万円以上を好きに使えるわけではありません。新規に開業する際は、かなり借入金が生じているはずです。収入の中から借金と従業員の給与を払うのです。

 私の親友が数年前に父親の跡を継いで開業しましたが、勤務医時代より自由に使えるお金は激減した(勤務医時代もごくありふれた給与でした)と言っていました。開業医は自分で経営を行い、さらに働けないような事態に陥ったら借金を返せないというリスクも背負っています。

 私は勤務医ですが、このような悪意に満ちた報道には腹が立ちます。開業医と勤務医の対立を煽るような記事の背後には、国の誤った医療政策があると思えて仕方がないのです。

院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第639号 平成22年2月15日 掲載


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