新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.11.06

Vol.230 勝ちに学ぶか、負けに学ぶか

 10月23日の日本経済新聞の一面トップは、「コロナ対応 優等生に学べ」というタイトルで、新型コロナに対する都道府県別の取り組みを、医療・ワクチン接種・検査の3つの体制を9つの指標で点数化して、上位10県を挙げて特徴を紹介しています。そこに第6波への備えとなる見本があるということです。1位から福井・山口・島根・和歌山・長崎・鳥取・徳島・新潟・秋田・石川・佐賀(10位は2県の同率)の順で、西日本の人口の少ない県が上位を占めています。

 確かに成功例から学ぶことはあるでしょうが、そもそも上位の県は本当に優等生なのでしょうか。10月21日に厚労省から発表された数字を元に私が計算したところ、人口あたりの陽性者数が少ない10県には、上記のうち6県が入っていますが、人口あたりの死者数が少ない10県には島根・鳥取・新潟が、陽性者に占める死亡者数が少ない10県には島根・鳥取が入っているだけです。結果を評価するのであれば、陽性者数よりも死亡者の多寡のほうが重要な気がします。陽性者に占める死亡者数が多いのは、医療体制に問題がある可能性があり、山口・徳島・石川の3県は、悪いほうの10県に入っています。また、和歌山県が陽性者を全員入院させたことを称賛していますが、そのようなことは人口が少ないからできることです。大都市には不可能で、その必要性すら感じません。さらに、PCR検査体制を指標にするのは、今となっては無意味ですが、そもそも初期に検査が十分にできなかったことが医療への無用な負荷をかけなかったことは事実であり、崩壊を防いだという意見さえあります。米国がPCR検査を用いなくなるという話が現実化していることを考えると、もうこの検査の充実を訴える意味はないと思います。

 以上の点から、このランキングから優等生と言うことには異議がありますが、それ以上に、優等生よりも劣等生?からこそ学ぶべきだと思います。人口あたりの死亡者数が多いのは、大阪がぶっちぎりの1位で、ついで北海道・兵庫・沖縄・東京が続き、さらに愛知・千葉・神奈川・埼玉・福岡と大都市を抱える地域が並んでいます。陽性者に占める死亡者数は北海道が群を抜き、徳島・福島・兵庫・山口と続き、山形も7位に入賞?しています。山形は人口あたりの陽性者では少ない方から6番目ですが、その割に死亡者が多いのです。死者に関する数字と何が相関するのでしょうか。少し調べてみたところ、人口密度は大都市を抱える地域と沖縄が高いので、相関がありそうです。高齢化率が高い地域は死亡が多いかというとその傾向はありません。家族内感染が起こりそうな三世代同居率も無関係です。医療体制では、人口あたりの医師数は関係なさそうですが、看護師数とベッド数は関係がありそうです。私のようなド素人にはこれ以上分析する能力はありません。当然専門家や行政はすでに分析しているのでしょうが、その割には以前と同様の対策しか聞こえてこないのは気がかりです。沖縄や北海道は国内外からの人の移動が多く、大阪では行政改革により保健所機能が低下し病院の統廃合も進んでいます。大都市では、コロナ診療に非協力的な病院があることも話題になりました。それがどの程度影響したのか、その上でどのような対策が必要なのかを教えてほしいものです。

 第5波は大きなものでしたが、我が国ほど急激に減少した国は見当たりません。その理由は、ワクチン接種が進んだからというのは無理があり、専門家の意見もピンときません。第5波で崩壊したのは一部の保健所であり、彼らに患者の振り分けを押し付けたことが、救えるはずの命を救えなかった原因と私は考えます。患者のことは医療機関に任せて、行政は失敗要因を調べて次に備えるのが仕事です。プロ野球の名将と言われた故野村克也氏の名言にも、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」とあります。失敗からは必ず学ぶことがあるはずです。


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