新庄徳洲会病院

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掲載日付:2020.02.01

Vol.176 薬物依存は他人事ではない

 薬物依存症の1/4は、合法的に入手可能な薬物が原因ですが、高齢者に関係が深いのは、睡眠薬や抗不安薬(安定剤)と呼ばれるものです。中でもベンゾジアゼピン系薬物(BZ)は、抗不安作用・睡眠作用・筋弛緩作用・抗けいれん作用などがあり、依存性や大量摂取時の危険性がそれまでの薬剤に比べて低いということから、1960年代に世界中で使用されるようになりました。しかし、70年代には乱用や依存が早くも問題視され、80年以降には長期服用による依存性や中止による禁断症状の出現が顕在化したため、欧米では治療効果よりも副作用が上回るとして、使用されることが少なくなりました。我が国では、筋弛緩作用が強いBZは頚椎症・腰痛症・筋緊張性頭痛にも保険適応があることも手伝って、すべての診療科で処方されてきました。さらに、SSRIと呼ばれる新しい抗うつ剤が発売されて以降は、欧米では更に使用頻度が減りましたが、我が国の処方件数は高止まりしています。世界的に見てもBZが異常に処方されているのが現状です。

 BZの半数以上は65歳以上に処方され、最も使用しているのは80歳代です。2005年に英国でBZの副作用研究によって、60歳以上の高齢者では、転倒の危険性が2.6倍に、認知機能の低下が4.6倍も多くなることがわかりました。高齢者が転倒すると、大腿骨を骨折しやすく軽視できません。このような副作用以外にも、長期間使用するとやめることができなくなり、「薬をなくしたからもう一度処方してください」と嘘をついたり、複数の医療機関から同じ薬をもらったりするような、精神依存という状態になることがあります。要するに、BZは使うとしても短期間で、高齢者には極力処方すべきでないのです。ただ、長年使用していると止めるにも手順があるので自己判断せず、医師に相談してください。

 私はBZに限らず睡眠薬や抗不安薬の使用は最小限にとどめていますが、難しいのは既に長期間使用している患者です。常用量でも長年使用していると、病的ではないものの依存状態になっていることが多く、減量や中止を提案しても拒否されることが少なくありません。時間をかけて説明しても、納得してもらえないばかりか、信頼関係を壊してしまうことが少なくありません。そんな理由で漫然と処方されている場合が多いと思います。

 歳を重ねるにつれて睡眠時間は減り、特に深い眠りは短くなります。にもかかわらず若い頃と同じような深く長い睡眠を求める人が少なくありません。夜7時から朝7時までぐっすり眠ることができるのは、小さな子どもだけです。不眠と不眠症は違います。睡眠不足でも、昼間の活動に差し支えがなければあまり気にする必要はありません。昼間の活動に支障が出るものを不眠症と言います。80歳以上の高齢者は6時間も寝れば十分です。眠いときには、30分くらい昼寝をしましょう。高齢者は早寝早起きではなく、遅寝早起でよいのです。眠くならなければ、明るい部屋でテレビを観るのではなく、暗い部屋でラジオでも聞きましょう。私のお勧めはNHKの「ラジオ深夜便」です。

 多かれ少なかれ人は何か(誰か)に依存して生きています。幸いにして、私は違法薬物はもちろんのこと、合法薬物にも依存したことはありません。ギャンブルやアルコールに溺れることもありませんでした。それは私が賢いからではなく、運よくそういう場に巡り合わなかっただけです。危険なものに依存せずに済んだのは、多くの人に依存できたからだと思います。私に依存された人には迷惑なことだったでしょうが…


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