新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.05.26

Vol.216 「さざ波」で医療が崩壊することが問題

 内閣官房参与の高橋洋一氏が新型コロナの感染者数について、自身のツイッターでグラフを示して、「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」と投稿したことに、批判が集まっています。「笑笑」はワラワラと読むそうで、この程度の感染状況で五輪をやらないと世界から笑われますよという意味らしいのですが、この表現が死者や苦しんでいる人を冒涜するものであると怒りを買ったようです。笑笑はともかく、「さざ波」であることはグラフを見ると明らかで、彼の主張に誤りはありません。問題は「さざ波」で医療が崩壊することです。

 政府や大多数の国民の目は、如何に感染者を減らすかということに向いていますが、世界的に見ても感染に有効な対策が、我が国のような人口の多い民主主義国家で成功したものはないように思います。ただ東アジアでは「ファクターX」と呼ばれる何らかの要因で、被害が少なく済んでいることは間違いありません。本来我が国の被害はさざ波であるにも関わらず、一部の医療機関と医療従事者に過剰な負荷がかかっているのです。さざ波を大きくしない努力は必要ですが、もっと患者の受け入れ体制に目を向けるべきです。少なくとも1年以上の間に有効な手を打てなかったことは、国も自治体も医師会も、そして医者も反省しなければなりません。中国のように専門病院を建設すべきだという考えもありますが、まずは既存の病床をどのように使うかを柔軟に考えたほうが、医療従事者の移動も少なく、時間もお金も節約できます。今よりも多くの医療機関と医療従事者で負担を分け合えるよう、二類感染症(実質的には一類感染症に近い)の指定を解除するなどの対策から始めてみてはどうでしょうか。

 WHOも厚労省も死亡時にPCR検査が陽性であれば、新型コロナによる死亡と定義しているため、主たる死因が他にあっても新型コロナによる死亡として集計されています。日本COVID-19対策ECMOnet(エクモネット)による新型コロナの重症患者状況の集計が昨年2月から公開されています。これは全国のほぼ80%の集中治療室病床のデータを集計していますが、5月22日時点で、人工肺(エクモ)または人工呼吸器管理を受けた後に死亡したのは1169人です。これは死亡する前に救命を目指して本当の意味で集中治療を受けた人の数と考えられます。全国すべてをカバーしているわけではないので、これより多くなるでしょうが、割合からすると1.25倍になるので1460人程度とになります。これは全死亡12261人の12%です。もちろん、本来集中治療を受けるべきだった人が、医療崩壊で受けられなかったことや、発見が遅れて治療を受けられなかったこともあるでしょうが、それを含めても20%を超えることはないでしょう。とすると残りの80%以上の人は、高齢であったり、もともと生命予後の短い状態であったり、あるいは実質的には他疾患や外傷による死亡であったと考えてよいでしょう。つまり、ここに属する人は高度先進医療を行う病院でなくてもよかったはずで、中には在宅での看取りも可能なことさえあったのではないでしょうか。数字を見ると、医療体制の整備だけで対応することができる気がして仕方がありません。さざ波で医療が崩壊する国に、本当の大波が来たらどうするのでしょうか。

 雑誌「週刊現代」に「ワクチン死亡39人」という特集がありました。その中で、接種翌日に大動脈解離でなくなった36歳男性や数日後に脳内出血で亡くなった26歳女性が紹介されています。これを「ワクチン死亡」と呼ぶには慎重な調査が必要で、本来は「ワクチン関連死亡」とすべきです。「コロナ怖い」でも「ワクチン怖い」でもなく、データを冷静に見ながら現状を理解して対応すべきなのですが、それがいかに難しいことかが一年以上経ってよくわかりました。


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