新庄徳洲会病院

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掲載日付:2021.04.01

Vol.212 ワクチン打ちますか?

 新型コロナワクチンの接種が、医療機関の従事者から始まりました。我が国ではmRNAワクチンが使われていますが、これは人類史上初めて用いられるタイプのワクチンです。これまでは病原微生物そのものや一部のタンパク質を人工的に合成して体内に入れ、それに対する抗体やリンパ球を体内に準備させるものでした。一方、今回のワクチンは、mRNAというタンパク質合成の設計図を身体に注射して、人体の細胞内でウイルスの表面にあるタンパク質を作り、それを異物と認識させます。短期間で大量のワクチンが作れるのが最大のメリットで、20年前から研究が進み、mRNAを自分の細胞に効率よく運搬する方法が開発され、一気に花開きました。実用化までの短さは驚異的で、欧米を中心とした先進国に深刻な被害が出たため、莫大な資金と人的資源が投下され、治験も心配になるほど短縮されました。もし途上国だけで流行していたなら、もっと致死率が高くてもこれほど短期間で実用化されることはなかったでしょう。

 今回のワクチンの有効率は90%以上と言われており、接種することで感染者が90%減少、つまり1/10になるので、流行地域ほど利益を受ける人が多くなります。これまでのところ日本と米国における人口100万人当たりの検査陽性者は3600人と9万人です。もしワクチンが初めから準備されて、その効果が日米で同等だとすると、この内の3240人と81000万人が感染から免れた可能性があります。日本は感染者が少ないので、ワクチンにより得をする人の割合も少なくなるということです。我が国はワクチンの入手に遅れを取っているだけでなく、自国での開発も欧米や中国に完全に遅れを取りました。科学技術分野でのこの悲惨な現実は、すぐに役立つものにだけ金や人を投入してきたことのつけです。被害の少なさを考えると、反省の意味を込めて、輸入は断念して6月頃に治験結果が出る自国ワクチンを待つというのも選択肢だと思います。

 さて、今回のワクチンを打つかどうかについて考えてみます。現在までに世界で4億回以上接種されましたが、急性期の深刻な副反応はほとんど起きていません。重症のアレルギー反応であるアナフィラキシー(アレルギーの原因物質の侵入により複数臓器に全身性にアレルギー症状が起こり、生命に危険を与え得る過敏反応)が起こる頻度は、これまでのワクチンよりは多く、我が国ではさらにその傾向が強いのですが、死亡例はありません。報告数が多いのは、厳しくチェックしている影響が大きいと思います。我が国はゼロリスクを求めるワクチン否定派の声が大きく、接種すべきものを定期接種していないためワクチン後進国と呼ばれています。今回も感情的に「殺人兵器」と呼んでいる政治家がいるようですが、今のところ言えることは、短期的な安全性はかなり高く、発症だけでなく重症化の予防効果もありそうです。遺伝子を注入することで、人間の遺伝子に変化が起こる可能性は極めて低いと思いますが、どれくらい効果が続くのか、ウイルスの変異により効果が変わるのか、中長期的な副反応(特に抗体依存性感染増強という抗体があるために免疫が暴走する現象)がどうなるか、などについてはわかりません。

 このワクチンは任意接種で、医療従事者でも受けない自由は保障され、接種するか否かで差別を受けることはあってはなりません。誤解を恐れずに言うと、人体実験が進行中の巨大プロジェクトで、長期的な効果も安全性も不明としか言えません。被害の少ない若年層への接種は急ぐ必要はないと思います。寝たきりや末期癌などの生命予後の限られた高齢者が、接種後に死亡している例が海外で散見されることを考えると、介護者に接種するほうがよいかもしれません。私は、早く打ちたいとは思いませんが、自分の順番が来たら受けるつもりです。私のような高齢でそれなりに元気な医療従事者は、もっとも実験台にふさわしいと思うからです。


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