Vol.299 OTC類似薬の保険適用除外よりも大事なこと
6月に政府は、「一部の処方薬を来年度から公的医療保険の適用対象から外す」という方針を発表しました。対象となるのは、風邪薬・湿布薬・アレルギー薬など、すでに市販されているOTC医薬品と成分や効能が同一の処方薬です。OTCとはOver The Counterの略で、「カウンター越しに」手に入る薬という意味です。医療機関で処方される薬剤の自己負担額は1〜3割ですが、これを薬局で購入させ、医療費を抑制するのがこの政策の目的です。自己管理が可能な軽症疾患に、保険適用の処方薬が漫然と多用されていることは以前から問題視され、2016年4月からは湿布薬の処方できる枚数が制限されました。このようなOTC類似薬の市場規模は、2021年度で約1兆円と推計されており、全てが処方できなくなると、理論上はそれだけ医療費が節約できます。
この政策によって実際にはどのような変化が起こるか湿布を例に考えてみます。湿布を漫然と使い続けている患者は高齢者を中心に数多くいます。このような人が10人いたとして、薬局で買う人は1人はいるかも知れません。医療機関で受け取る残りの9人のうちで、3人が使うのをやめ、6人が薬局で購入するとします。もしも湿布がすべて保険適用外となったら、確かに9人分の医療費は節約できますが、薬局で購入する7人の湿布薬には、付加価値がつけられているので、購入額は節約できる医療費の数倍になるでしょう。つまり、少し医療費を節約しても湿布薬そのものの売上高は増加します。湿布薬の市場は年間1300億円程度ですが、これが更に大きくなり、製薬会社は潤うような気がします。これが花粉症に対する抗アレルギー薬になると、薬自体の値段が高く、やめられる人はほとんどいないので、差はもっと大きくなります。結局、医療費が少し減っても、医療に要する総額は増加することになりそうです。
我が国の医療費に占める薬剤費の割合は20%を超え、諸外国より多いので、薬剤費を減らすのは正しい方針です。薬剤そのものは国際的には安価なため、薬好きの国民と、処方好きな医者が多くなり、結果的に薬の危険性に鈍感にもなりました。医学の進歩と共に高額な新薬が開発されますが、これまでのような医療制度は、経済が停滞した現代では維持できません。今回の政策の目的はあくまでも「医療費の削減」ですが、大事なことは、医療に関わる費用全体を抑えることです。そのためには無駄な薬や使わないほうがよい薬を洗い出し、使用基準を明確にすることです。それは薬剤費の削減だけではなく、国民の健康に貢献することになるからです。
精神科医でベストセラー作家でもある和田秀樹氏は、コレステロールと血圧や血糖の目標値を適正化すると、年間4〜5兆円の節約が可能と述べています。先ごろ日本高血圧学会が改定した「高血圧管理・治療ガイドライン」では、高血圧の治療目標値が年齢にかかわらず130/80未満に厳格化されました。さらに、薬物治療を早期に開始し、早めに追加することを推奨しています。「血圧は低いのが正義」ということです。高齢者は血圧が下がりすぎると意識障害を起こしたり、脳梗塞になることもあります。複数の薬を使うほど副作用は起こりやすくなります。新薬が開発されるにつれて、治験段階ではわからなかった副作用が出ることもあります。特に高齢者は、多剤投与や新薬を投与することは慎重にすべきで、薬は最小限にして、穏やかな日々が続くことを目標にしたほうが良いと思います。このようなガイドラインの改定は私の考える医療とは真逆のものです。実は私は高血圧ですが、自分なりに分析して放置しています。ある日、脳出血でポックリ逝くかもしれませんが、それは自己責任と心得ています。偏屈者の私には、医学がこれ以上進歩するよりも、医療の中身を充実させるほうがはるかに重要と思えます。そのためには、薬の功罪を啓蒙し、薬剤師の権限と責任を拡大しなければなりません。