Vol.113 健康長寿は医療費を増やす
国民が健康で長生きするほど医療費は抑制されると思っている人が多いようですが、本当でしょうか。わが国の医療費は、1973年の約4兆円から直線的に増え、2000年には約30兆円に達しました。その後も増え続け2013年には39兆円余りになりました。わが国は世界でもトップクラスの健康長寿国ですが、医療費は伸び続けています。
厚労省によると、生涯医療費(医療体制や死亡率が変化しないと仮定して算出した、一人の人が生涯で必要となる平均医療費)は2010年では2400万円と推計されています。これを男女別に見ると、男性が2300万円であるのに対して、女性は2500万円となっています。健康で平均寿命が6年長い女性のほうが医療費は高いのです。年齢別に生涯医療費を見ると、成人するまでは男が多く、成人してから中年までは女、中年以降で再び男、高齢者では圧倒的に女が多くなります。高齢になるほどその差は広がり、75歳以上に限ると、女性の医療費は男性の1.4倍にもなります。
健康であれば医療費がかからないのは、一定期間に限った場合にだけ当てはまります。 生涯医療費を見ても、70歳までに使う医療費と70歳以降に使う医療費はほぼ同じで、ピークは75歳からの10年間です。特に死ぬ直前には医療費がかかるので、高齢になるほど医療費はかかります。一定の年齢になったら医療は打ち切りにする以外に、「健康長寿=医療費の削減」という式は成り立たないのです。平成14年に制定された健康増進法の第二条には、国民の責務として「生涯にわたって、自らの健康状態を自覚し、健康の増進に努めなければならない。」と記されています。日本人が国民の責務を果たし続ける限り医療費は増大するのです。
医療費が増え続ける主な理由は、長寿になったことと医学が進歩したことの二つです。日本人の寿命が伸びて、医学が進歩して新しい診断法や治療法が生まれてくるのは、多くの人が望むところです。しかしそこには必ず医療費の上昇が伴います。高度経済成長期にはそれが許されたのですが、低成長社会では限度があります。そこにつけこもうとしているのが医療に市場原理を持ち込もうとしているグローバリストという輩です。このままでは医療費により財政が破綻してしまうので、自己責任でいきましょうという理屈です。私は国民皆保険制度を維持すべきだと思います。そのためには、健康長寿や医学の進歩を絶対的な善と考えることを止めなければなりません。高齢者ほど、生きる意味や死について真剣に考えなければならない時代なのです。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日 第755号 平成26年12月15日(月) 掲載