Vol.244 未成年・基礎疾患なしのコロナ死2人に思う
2月に相次いで基礎疾患のない未成年者が、新型コロナで死亡しました。今回はこの2例について考えてみます。
1例目は、埼玉県の19歳の男性で、2月9日に新型コロナによる肺炎から播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こし死亡しました。2日に発熱、2月3日に感染が確認され、40℃の発熱がありましたが自宅で療養、7日に体調が急変して救急車で病院に搬送され、9日に亡くなりました。6日に最初の救急搬送の要請がありましたが、基礎疾患がないことに加え、パルスオキシメーターで測定する酸素飽和度(血液に酸素が十分含まれているかの指標)に問題がなく、せきや呼吸困難などの症状もないことなどから、保健所は入院調整の基準に達していないと判断し、保健師による健康観察を行っていたということです。救急搬送時には、意識が悪く血圧も低下していたので、かなり急激に病態が悪化したと思われます。DICは全身の細い血管内に持続的に血栓が形成される病態で、感染症や悪性腫瘍など様々の原因で起こり、死に至ることが少なくありません。
この時期の感染なのでオミクロン株であることは間違いないでしょうが、デルタ株までとは異なりオミクロン株では血栓症を起こすことはほとんどありません。それまで健康だった若者が上気道の炎症が中心であるオミクロン株に感染して、一気にDICを併発するというのは、体内で激烈な「何か」が起こったはずです。気になるのは彼のワクチン接種状況ですが、感染の約3ヶ月前に2回目の接種を終えています。以前から私が最も心配しているこのワクチンの中長期的な副作用は、抗体依存性感染増強(ADE)ですが、その可能性を考える必要があると思います。ADEは、ワクチンや過去の感染によって獲得した抗体が、当該ウイルスや類似したウイルスに感染したときに、生体に悪い作用を及ぼし、感染・炎症が重篤化する現象です。
今回のmRNAワクチンでADEが起こった例はないと断言する感染症の専門医もいますが、一方ではADEを起こす抗体を発見したという研究者もいます。専門家でない私には真相はわかりませんが、SARSやMARSにワクチンが実用化されなかったことや、デング熱ワクチンが開始後に中止された理由が、ADEであったことを考えると、簡単に「ない」と断言するのは強い違和感があります。南アフリカやインドなどワクチン接種が進んでいない国では、オミクロン株の感染が急速に収束したのに対して、イスラエルやイギリスなどのワクチン接種率が高い国では、減少速度が遅くなっています。我が国でも、第6波がこれまでと違ってなかなか収まらないのは、ワクチン接種が広がったために感染増強が起こっている可能性も取り沙汰されています。
このタイミングでは彼の血中の抗体価は十分にあったはずであり、それは武漢型ウイルスに対する抗体です。その抗体が、オミクロン変異したウイルスと体内で出会った時に、不完全な抗原抗体反応が起こった末に、激烈な免疫反応を生じたとすると、DICを併発しても不思議ではありません。mRNAワクチンの技術は、革命的なもので今後様々な分野で活用される可能性があるからこそ、より慎重に対応すべきだと思います。この男性が解剖されたかどうかはわかりませんでしたが、臓器や血清の保存などを行い、時間がかかっても詳細に検討する責任があると思います。
3月10日に、京都府で基礎疾患のない10歳未満の未就学児が死亡したと報道されたのが2例目です。詳細な情報が手に入りにくかったのですが、Youtubeで野中しんすけ氏が紹介していました。彼は看護師で、冷静に新型コロナの分析をしており、以前から参考にしています。それによると、生後10ヶ月女児で、2月21日に38.8℃の発熱があり翌日には解熱しましたが、24日に呼吸がゼーゼーするようになり保健所に連絡するも、「今日はコロナ患者を診てくれる病院がない」と言われ、翌25日に病院を受診します。そこでは肺炎の疑いはあるが内服で様子を見ましょうと言われました。26日には顔色が悪くなりその病院に連絡したところ、「土曜日なので別の病院を」と言われ、他の病院を探しましたが、その後呼吸が停止し死亡しています。死因は不明で、京都府は対応に問題なしと発表しています。保健所からはパルスオキシメーターが送られていますが、これは成人用であるため、乳児は測定できず、酸素不足になっていたかは不明です。23日に家族全員がコロナ陽性と診断されているので、家族内感染が疑われています。
2例目は医療の提供体制に問題があるように思います。いったん解熱してから呼吸困難が急速に進行しています。コロナ感染は間違いないでしょうが、咽頭・扁桃の炎症や気道異物など小児特有の原因が他にあったかもしれません。特に新型コロナでは、PCR陽性に意識が集まりすぎて、他の病態は考えなくなってしまいがちです。ましてや患者は乳児で、専門的な知識や経験が物を言います。保健所が、このような事例の窓口になることがいかに不適切であるかがよく分かるのではないでしょうか。患者の状態を評価し適切に対応することを保健所に要求するほうが間違っています。京都府は全国でも人口に対する医師数が多い地域です。京都府内のどこかは不明ですが、小児の救急医療体制も整備されているとは言えません。初診時の対応も問題かもしれませんが、翌日に診察依頼された際に断るだけの対応をしたことは責められるのではないでしょうか。新型コロナを特別扱いして、診療する医療機関を限定したことが招いた悲劇と言えるかもしれません。もちろん、最善の医療を提供しても救えなかった可能性はありますが、「救えたはずの命」であった可能性はあると思います。
「発熱患者お断り」と表示している医療機関があるらしいのですが、発熱外来と称しているところでも、PCRや抗原の検査をして、陽性なら保健所から指定された薬を処方するだけというところもあるそうです。発熱は臨床医が診る症状で最も頻度の高いものの一つです。病歴や診察所見からどのような疾患の可能性が高いか、頻度は低いけれどもこれだけは見逃してはいけない疾患かは研修医時代から学びます。もちろん、私も誤診はしますが、話も聞かず診察もせずに検査をして処方することはありません。これは医者の誇りを失った行為です。これを医療というのであれば、気の利いた中学生でもできます。今回のコロナ騒動は医療の本質をブチ壊したと言ってもよいと思います。
メディアの関心はウクライナ戦争に大きくシフトしたせいか、この二人の死に関する詳細な調査報道を見つけることはできませんでした。いずれ厚労省から発表があるかもしれませんが、基礎疾患のない若者でも死に至ることがあり、新型コロナはやはり怖い病気だという教訓事例としてだけ語り継がれるような気がします。しかし、それだけで終わらせてはなりません。メディアだけでなく、専門家や行政こそが、このような事例から学ばなければなりません。命を取り戻すことはできませんが、何が身体に起こっていたのかを調べるためには、病理解剖や血清保存を積極的に行うべきです。科学者としてワクチンの功罪を冷静に見つめ、救えたはずの命が最小限になるように、謙虚な気持ちで向き合い、詳細な検討を加えることが、残された我々にできることです。責任追及とは別に医療提供側の対応を冷静に分析することも重要です。そのようなことを地道に行うことで、新型コロナとの向き合い方が変わるかもしれません。それは医療従事者以外にも言えることです。ある程度のリスクを受け入れる覚悟が必要なのです。若くして失われた2つの尊い命から学ぶことは決して少なくありません。