Vol.214 迷走する緊急事態宣言
4月23日に新型コロナに対して、東京・大阪・京都・兵庫の4都府県に、3回目となる緊急事態宣言が発令されました。この中で東京都は病床使用率が20%台で、まん延防止措置の基準は満たしているものの、緊急事態宣言の発令基準である50%には及びません。にもかかわらず発令しなければならない理由が明確に説明されませんでした。「医療体制のひっ迫」という曖昧な表現しかしない東京都の要請を政府も受け入れ、ほとんどのメディアも取り上げていません。「やっているような感じ」を見せることが重要視される風潮が1年以上経った今でも続いています。これは、政治家がやたらに口にする「スピード感を持って」と同じです。大事なことはスピード感ではなく、スピードです。
また、これもほとんど知られていないようですが、まん延防止措置の基準が4月23日に厚生労働省から出された官報(国としての作用に関わる事柄の広報および公告)で変更されています。それによると知事の権限で酒やカラオケの提供を禁止できるようになりました。つまり、緊急事態宣言が解除されたときに、再び取られるまん延防止措置で、酒やカラオケの禁止措置が継続できるようにしたのでしょう。これは国会で審議されたわけでも、閣議で話し合われたわけでもなく、厚生労働大臣が出す文書で変更されています。しかもこの事実も多くのメディアはスルーしているのです。官民一体の翼賛状態と言っても過言ではないでしょう。
人の行動を抑制することが感染の拡大をある程度抑える効果はあると私も思いますが、欧米のような私権制限のある都市封鎖でも大きな成果がないのに、我が国のような私権制限を伴わない緊急事態制限の効果はかなり限定的です。要するに行動制限は、医療崩壊を防ぐ手立てを取るための時間稼ぎという位置づけなのです。これまで1年間でできなかったことが、わずか2週間でできるとは考えられませんし、ワクチン接種を広めるにしても短すぎます。そもそも患者数の少ない我が国ではワクチンの効果も限定的だと思います。英国がワクチンにより検査陽性者が激減していると言われていますが、ワクチンを打ち始めたのと同時期に急激に減少しており、少なくとも初期の減少効果はワクチンによるものではなさそうです。マスクをやめた英国の検査陽性者数は現在の日本と同等で、我々はそのような状態に以前からいるのです。
確かに大変な苦労をしている医療従事者がいることは事実ですが、少ない医療機関に負担が集中するのは、できるだけ多くの医療機関で分け合って診療することができないからです。二類感染症の扱いを廃止し、五類相当として扱うとこの問題は最も速やかに解決するはずです。現体制で対応できないならそれ以外の道はないと思います。過剰とも言える予防対策を止めると、労力も随分軽減するはずです。もちろん、それにより感染が拡大し死亡者が出る可能性もありますが、そのリスクを受け入れるほうがマシだと思います。
あまり有効とは思えない緊急事態宣言をするよりも、試しに1ヶ月限定で五類相当にしてみればよいのではないでしょうか。それで、今よりも悪くなるようであれば、戻せばよいのです。最も流行している大阪の陽性者は直近の1週間で8000人弱で、人口比にすると千人に一人ということです。つまり一週間に99.9%の人は無関係なのです。普通、「99%大丈夫」と言われるとほとんどの人は大丈夫と安心するのではないですか。それよりもさらに10倍安全性は高いのです。緊急事態宣言を大多数が望む昨今の雰囲気は、先の大戦中の「欲しがりません勝つまでは」の精神と同じものを感じますが、実は受け入れ可能なリスクの中にいるような気がしてなりません。