新庄徳洲会病院

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掲載日付:2020.05.20

Vol.185 国会で福山さんに代わって聞きたかったこと

 5月12日の参議院予算委員会での、専門家会議の尾身茂副座長に対する立憲民主党の福山哲郎議員の質問態度が批判されています。態度はさておき、福山氏は、PCR検査が少なすぎて多くの感染者を見逃している、軽症や無症状の者も診断し隔離すべきだったと言いたかったようです。以前にも書いたとおり、PCR検査は感度が高くない(感染している人を陽性と診断できる確率がせいぜい70%)ので、感染している人が少ない集団に対して行うと、真の陽性よりも偽陽性が多くなるので有害無益です。無駄な入院が増えるだけでなく、入院したために本当に感染してしまうこともありえます。実際に、陽性者が入院して陰性となり退院した後で、再度陽性になって発症する原因の一つである可能性もあります。

 韓国や西欧諸国は、我が国の数倍から十倍程の検査を行っていますが、有症状の患者を一人見つけるために行っている検査数を比較すると、韓国よりは少ないですが、ドイツと同等で、イタリア・スペイン・イギリス・フランス・アメリカより多く、決して検査数自体が少ないとは言えません。福山氏の指摘するように、感染者数はPCR陽性者数よりもかなり多いと思いますが、我が国の場合、重症者や死者が非常に少なく、医療崩壊も起こしていないことを考えると、PCR検査をもっとやるべきであった理由は、東京以外ではあまりないように思います。

 死亡者数を都道府県別に見ると、東京都が2位以下を大きく引き離し、人口あたりの死亡者数は、大阪の4倍近くあります。東京の高齢化率は大阪より4ポイント以上低く、どう考えても東京の死者数は突出しています。ところが、PCR検査数は、大阪の3/4程度で埼玉に次いで3位です。人口が大阪の1.5倍であることを考えると、東京におけるPCR検査は少なすぎます。検査の基準は全国で統一されており、実際に大都市では保健所がパンク状態になり、基準に固執したために、適応なしと判断された患者の中には、新型コロナではないという保証がないと診察しないという病院から受け入れを拒否された人がいました。先日亡くなった大相撲の力士もその一人のようです。PCR検査は限界がある検査であるからこそ、大事なのは患者です。PCR陽性で無症状の人には、他の人と接することを控えること以外にすることはありません。このような人が病院に溢れそうな状況だから、都会では医療崩壊が話題になったのではないでしょうか。PCRが陰性でも症状の強い人は病院での受け入れが必要であり、入院する意味もあるのです。

 国立感染症研究所が5月4日に発表した「21大都市インフルエンザ・肺炎死亡報告」では、昨年後半から今年3月にかけては超過死亡(インフルエンザが流行したことによって、インフルエンザ・肺炎死亡がどの程度増加したかを示す推定値)は見られませんが、東京23区に限定すると、2月末から3月末に明らかに増加しており、その数は約100名程度と思われます。今年初めからインフルエンザは急激に減少していることを考えると、これが新型コロナによる死亡者という可能性も否定できません。

 国会で問うべきは、なぜ医師が必要と判断した状況で検査できなかったのかであり、なぜ東京の死亡者が多いのかです。医療レベルが低いということは考えられません。医療体制が不備であったか医療政策が間違っていたのでしょうか。病院や検査センターの監督官庁である厚生労働省と、大学の監督官庁である文部科学省との連携が取れていなかったのでしょうか。きっと尾身氏自身も言いたいことがあるはずです。そこを議論して改善しないと、次への備えなどできるはずがありません。


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