Vol.153 病床を減らすと医療費も減るのか
日本経済新聞は、先日の一面トップに「病院ベッド、39道県で過剰」という見出しで、必要以上の病床があるために不要な医療が行われ医療費が増大しいることを指摘していました。新庄最上地域では、現在の891床を2025年には574床にするのが県の方針です。県立新庄病院も新築移転に伴い100以上の減床になりますが、7年で300床以上、35%を減らすということです。問題は次の三点ー①この政策は医療費削減を目指しているが効果はどの程度か、②医療費を下げるだけてよいか、③地域特性をどう考えるかーだと思います。
まず、医療費高騰の原因の一つに医療側が過剰に行う検査や治療が挙げられますが、医療経済学では、その影響は意外に少なく、医学の進歩が圧倒的に大きいと言われています。
2つ目の問題は介護と関連します。2000年度に介護保険制度が始まりましたが、当時3兆6千億だった介護の総費用は2016年度には10兆4千億円になりました。金額にして6兆8千億、伸び率は3倍です。この間に医療費は、30.1兆円から40.1兆円に増加していますが、伸び率が以前に比べて比較的低く抑えられています。その理由の一つが、医療の一部を介護に移行したということです。例えば、要介護5の人には介護保険から最大で月に約36万円相当の介護サービスが受けられますが、その人が病院に入院していると医療必要度より検査や治療が行われる可能性はありますが、基本的な療養に要する費用はあまり変わりません。介護費を考えずに医療費だけに注目すると本質を見誤ってしまいます。
病床を減らすと外来や在宅医療が増えますが、その影響は地域によって異なるというのが3つ目の問題です。新庄最上地域は香川県とほぼ同じ広さですが、人口は10分の1以下です。豪雪地域に分散した高齢者が通院することの労力は都会とは比較にならず、往診や訪問看護の効率も非常に悪いので、病院や介護施設だけでなく、居住地区にも集約化を進めることが必要になります。
単純に病床を減らせば無駄な医療が減り、医療費が削減できるというは疑問です。外来であれ入院であれ、この医療はできないという制度を導入すべきだと思います。さしあたり超高齢者の延命だけを目的とした、経管栄養や透析導入は断念してもよいのではないでしょうか。関係者からは強い反発が予想され、票を失うことを覚悟で政策を打ち出す政治家もいそうにありません。しかし超高齢者と働き盛りの人への医療を同等に行うことができる時代ではないのです。それは人間らしい生き方という点ではむしろ健全でさえあると思います。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日第833号 平成30年3月15日(木) 掲載