新庄徳洲会病院

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掲載日付:2022.01.29

Vol.237 心筋炎をめぐる数字のトリック

 5〜11歳への新型コロナワクチン接種について議論された1月23日の「TVタックル」で、東京医科歯科大学病院の荒井裕国副院長が用いた数字に疑問があります。彼は、小児への接種に反対する京都大学ウイルス研究所の宮沢孝之准教授に対して、心筋炎の発症率に触れ、20代の男性がワクチンにより心筋炎になるのは、ファイザー社製で100万人あたり9.6人、それに対して新型コロナに感染したために心筋炎になるのは800人以上、この差は重いと述べています。これは厚労省が昨年10月に出した一般向けのリーフレットでも、ファイザー社製ワクチン接種後に心筋炎・心膜炎が疑われたのが、20代の男性では100万人あたり9.6人、それに対して、新型コロナ感染症に伴う心筋炎・心膜炎は、15歳から40歳未満の男性では834人で、差は80倍以上になり、感染するほうがワクチンの副反応よりも、はるかに恐ろしいということを強調しています。

 ところが、これは大きな問題があります。一方はワクチン接種者を対象としていますが、他方は感染者を対象としています。「接種したらこうなる」と比較するのは「接種しなかったらこうなる」であり、「接種しないで感染したらこうなる」ではありません。感染確率を無視しています。20代男性で陽性になったのは、これまでの2年間で30人に1人なので、非接種者が100万人では、1/30の約3.3万人が感染し、心筋炎になるのも834人の1/30で約28人(後述するモデルナ者ワクチン後と同等)になります。接種者100万人で9.6人が心筋炎にあるのであれば、比較するのは非接種者100万人であり、その中の感染者3.3万人中、心筋炎になるのは28人に過ぎません。トリックはまだあります。この834人とは感染者ではなく入院患者から算出したもので、無症状者や軽症患者は対象から外れています。無症状者は心筋炎がゼロで、軽症者は入院患者よりかなり少ないはずです。また、この数字は、入院患者3.8万人余りの中の20代男性4798人に心筋炎が4人いたので、これを100万人あたりに換算して834人としたものです。4人という非常に小さい数字は1人増減すると大きく変わるので信頼性は低いものと言えます。しかも対象年齢がなぜか39歳まで広げられており、全員が30代であった可能性もありえます。さらに厚労省は、海外では100万人あたり450人という数字を併記し、日本人が感染によって心筋炎になりやすいかという印象操作を行っています。以上からどんなに高く見積もっても陽性者100万人あたり500人を超えることはないでしょう。ましてオミクロン株は重症化しにくいので、この1/10くらいの可能性も十分にあります。ワクチン擁護のためか、荒井氏はファイザー社製の数字を用いていますが、心筋炎の頻度が25.7人と2倍以上あるモデルナ社製には触れません。実は認知度が上がったせいか、心筋炎の頻度は両社ともに増加し、直近では13人と28人程度になりました。今後は接種比率が同じになるので、接種後の心筋炎の頻度は100万あたり20人程度と考えられます。

 以上の数字をもとに、現在約700万人いる20代の男性に対して、①全員が接種、②全員が非接種、した場合で計算してみます。①では、人口100万人あたり20人がなるので20x7=140人です。②では、感染率を非常に高い10%に設定すると、70万人が感染するので、100万人あたり500人と仮定すると、350人です。これはワクチン推進派の意見を最大限に取り入れた数字ですが、2つのグループの差がかなり接近しました。接種率が70%くらいなら、差はさらに縮まります。予防のために使用されるワクチンは、極めて高い安全性が求められます。同等では話にならず、この程度の差で安全性が高いとは思えません。実際にはこの差が逆転する可能性さえあるのです。政府や専門家は、このようなトリックまで使って、20代男性よりはるかに重症化率の低い5~11歳の子供へ接種を広げようとしています。慎重の上にも慎重を期するのが、まともな専門家、というよりもまともな大人の態度です。私の考察のすべてが勘違いであればよいのですが。


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