Vol.154 9割の高齢者が終末期に延命を望んでいない?
総務省統計局が公開した「人口推計」の「2018年3月概算値」で、75歳以上の後期高齢者が1,770万人、65歳から74歳の前期高齢者が1,764万人と、後期高齢者の人口が前期高齢者を上回ったことが明らかになりました。75歳というのは、病気から死に至る確率が高くなる意味で、妥当な線引だと思います。2025年には団塊の世代が後期高齢者になり、終末期に向かう高齢者の医療は、ますます大きな問題となることは間違いありません。
内閣府の平成28年度版高齢社会白書によると、65歳以上の高齢者の延命治療に対する考え方を調査した結果、「延命のみを目的とした医療は行わず、自然にまかせてほしい」と回答した人の割合が91.1%だったのに対して、「少しでも延命できるよう、あらゆる医療をしてほしい」と回答した人の割合は4.7%でした。積極的な延命を希望しない高齢者が9割以上というのは、高齢者医療の現場で仕事をしている実感との差を感じますが、その理由を考えてみました。
まず、「延命のみを目的としたとした医療」の捉え方が、一般人はもちろん、医療者の間でも差があることが考えられます。延命のみを目的にしている医療の代表は、回復の見込みのない人に行う経管栄養でしょうが、本人が嫌がっているのに無理やり食べさせることも同じと見ることもできます。高齢者の肺炎に人工呼吸器を使って、悲惨な状態で延命されてから死ぬこともありますが、回復して退院する人もいます。医学的有効性や倫理観や医療費の兼ね合いで無駄か否かを総合的に判断せざるを得ないのですが、基準づくりは容易ではありません。まずは極端なものから適応なしとすることから始めるべきでしょう。
次に、病院経営という観点から、医療行為が少ない患者から得られる診療報酬は多くないので、入院を継続するためには何らかの医療行為をせざるを得ないという側面もあります。胃瘻を造って施設へ送るほうが効率的で、施設も管理しやすいという事情も無視できません。
もう一つ見逃せないのは、患者の家族に何もしてくれないという不満を持たれたくないという医療者側の気持です。医療には想定外の事態が起こりやすく、関係がこじれていると訴訟にもなりかねません。訴訟のリスクを減らすための医療ということも否定できないのです。
自分の終末期に何を希望し何を希望しないかを明確にするリビング・ウィルや事前指示書を制度化することは解決策かもしれませんが、社会的な合意が得られる道は険しそうです。
今回は総論的なお話でしたが、次回から具体的な問題について考えてみます。
院長 笹壁弘嗣
新庄朝日第835号 平成30年4月15日(日) 掲載