Vol.306 発達障害の増加から考える
「発達障害」という概念は、私が医者になった40年前には聞いた記憶がありませんが、近年では一般にも知られるようになりました。「自閉症」は発達障害に含まれましたが、学生時代に精神科実習で診た患者が、子供らしさが皆無で、意思の疎通もできなかったことは今でも覚えています。発達障害は、現代社会を反映しているような気がしていましたが、数か月前から精神科医の樺沢紫苑(カバサワシオン)氏の著書や動画に触れてみて、素人医者が感じたことをお話します。
氏によると、ある統計では発達障害が過去10年で10倍以上に激増しているそうです。発達障害には、①自閉症スペクトラム症、②注意欠如・多動症、③学習障害などがあり、もともとは脳の前頭前野という部位に先天的な障害があり、頻度は数%と考えられていました。急増したのは、後天的な発達障害が増えているからではないかと氏は述べています。その根拠の一つは、「米国で精神科を受診した10代の10%が発達障害と診断されたが、先天性疾患であるにも関わらず、20歳を超えると半数以上は通常の生活をして仕事もしていた」という事実です。後天性であれば発達の遅延であり、時間とともに脳が発達して通常の社会生活も送れるということです。それに加えて、病気が社会に認知され、治療薬もできたことで過剰に診断されるようになったことも増加の原因ではないかと私は疑っています。実際に、精神科や心療内科界隈では、うつ病と認知症に加えて、発達障害は三大ビジネスと言われているそうです。
樺沢氏は、発達が遅れるのは脳が疲れて働きが悪くなっているからで、ストレス・睡眠不足・スマートフォン(スマホ)の使いすぎなどが主因であると述べています。スマホが子供の前頭前野に障害を与えることは、多くの研究から明らかで、例えば1歳未満の乳幼児に1日数時間の動画を見せると発達が遅れるリスクが4〜5倍になります。氏自身の調査でも、1日10時間以上スマホを使うと、80%以上が鬱(ウツ)になり、その半数以上は中等度以上で、自殺率も上昇します。逆に2時間以内に制限することの有用性も証明されています。スマホの制限以外に氏が強調するのは、運動と栄養の重要性です。太陽の下で子ども同士がじゃれ合って、身体と脳を使うことで、脳は発達するそうです。栄養では、オメガ3脂肪酸・鉄・亜鉛・マグネシウム・ビタミンDなどを勧めています。要するに、後天性の発達障害は生活習慣病ということです。
近頃の日本人の若者が、真面目で礼儀正しく大人しい反面、傷つきやすいのは、豊かな社会に生まれ育ち、人と人との距離が遠くなったことが影響しているのではないでしょうか。当院にも約20年前から卒後2〜3年目の若手医師が2〜3ヶ月間の研修のため毎年十数人やって来ますが、彼らに対しても同様の印象を持ちます。日本が貧しく弱くなり、不真面目な外国人が増えた近未来を想像すると、老婆心ながら心配になります。若者には生活習慣の重要性とともに、発達障害は稀なものではなく、欠点とも限らないということを理解してほしいと思います。古今東西の天才と呼ばれる人には多くの発達障害と思われる人がいます。発達障害を欠点ではなく特徴と考えると、自分に適した生き方も見つけやすいはずです。そして、子供の発達障害に悩んでいる親に言いたいのは、親にできることは限られているということです。かつては職業の区別なく、親のあとを継ぐ男子はほぼ全てのことを父親から学び、女子は母親から女として生きていくことを学びました。多様化した現代社会では、子供が親の影響を強く受けるのは幼児期までで、それ以後は学校を始めとする様々な集団の中で、特に同年代の人の影響を受けるようになりました。我が子が発達障害と診断されたときに、反省すべきところは反省した上で、自分を責めすぎずに、精神科を受診する前に樺沢先生の本を読んでみるほうがよいと思います。