Vol.268 弱者が強者を駆逐する?
経済産業省に勤務するトランス女性の職員Aさんに対する最高裁判決について、いくつか感想を述べます。Aさんは、50代の戸籍上は男性で、性同一性障害の診断を受け、健康上の理由で性適合手術は受けていませんが、長くホルモン治療を受け、名前も女性らしいものに変更し、服装も女性と報道されています。自称トランス女性ではなさそうです。
まず、医師が診断した「性同一性障害」という病名の持つ意味は重いと考えられていますが、この診断はかなり曖昧なものです。生物学的な性別の特定には染色体検査やホルモン検査が行われるでしょうが、精神科や心療内科での問診が中心になり、血液検査や画像診断などの客観的な指標はありません。性同一性障害の病態(心と身体の性が一致しないメカニズム)についてはわかっていないはずで、実際にWHOでは病気とは認めなくなりました。極端な言い方をすると、問診への対応を覚えれば診断を受けられることが多く、実際にマニュアルもあるようです。
次に、Aさんは健康上の理由で男性から女性への性適合性手術を受けられないとのことですが、この手術には段階があり、最低限の手術では、①陰茎と睾丸の切除、②陰嚢の皮膚の切除と縫縮、③尿道口の形成の3つをすれば良く、尿道口の形成は専門的な技術は必要かもしれませんが、身体的な負担はかなり小さいはずで、20年以上公務員として働いてきたAさんには耐えられないとは考えにくい気がします。トランス女性は自分の男性器に対して嫌悪感を持つことが多く、切除しても満足していない人もいるようなので、判断は難しいですが、手術を受けたくないから受けていない可能性もありそうです。戸籍上の性別変更を裁判所に申し立てる要件に適合手術は含まれているので、Aさんは戸籍上女性になることはできません。手術を受けたくないけど、女性として生きたいのであれば、多少の不自由は受け入れるべきではないでしょうか。
さらに、Aさんは職場の離れた階で女性用トイレを使っていたようですが、なぜ多目的トイレではだめなのでしょうか。多目的トイレは様々の目的で性別に関わらず使えます。経産省にも多目的トイレがあり、それを増やしたという話もあります。多目的トイレを使用することで双方が妥協できなかった理由は判決文には見つけられませんでした。私が職場で同様の要求をされたら、多目的トイレを増やすからそれを使ってもらえませんかと言うつもりです。そもそもAさんの周りの人が女子トイレを使うことになんの違和感ももっていなければこのような問題は起こらなかったはずです。司法の場で決着をつける以外に解決手段はなかったのでしょうか。
女性が守られるべきなのは身体的弱者だからです。世界一の女性格闘家に、私は秒殺されてしまいますが、彼女は男性のチャンピオンには刃が立たないはずです。体力で劣る女性が、男に対して恐怖を持つのは当然です。トイレを使う時間は女性の方が長く、排泄行為以外の目的でも使われるので、女性用トイレはもっともっと増やすべきです。共有スペースで女子トイレに長蛇の列ができるのはよく目にする光景で、イベント会場や高速道路のサービスエリアなどで中年女性が団体で「今だけ男と」言いながら男子トイレに入ってくるのは、大阪発?のトランス男性と言ってもよく、容認しても良いと思いますが、その逆は犯罪です。性的少数者が100%満足するために女性という弱者が不安を抱えて生きていかなければならないのは容認できません。私は医療者なので、患者という弱者に向き合っています。職員に私が強調するのは、「弱いと正しいは無関係、弱者には思いやりが必要だが、それは言いなりになることではない。」ということです。強者が弱者を排除するのは容易に想像できますが、弱者が強者を駆逐することもできるのです。