新庄徳洲会病院

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掲載日付:2020.06.10

Vol.188 コロナとスポーツについて

 5月29日にサッカーJリーグの村井満チェアマンが、6月20日頃の再開を目指して、独自のPCR検査センターをJリーグ組織内に設置する方針を発表しました。内容は、2週間毎に選手やレフリーなどの関係者(1回あたり2300人以上)から唾液を採取してPCR検査を行い、陰性者のみが出場できるというもので、日本感染症学会のトップの先生方も深く関わり、世間からの評価も高いようです。今後は、野球でも行われる可能性が高いでしょう。

 4月1日号の「PCR検査も万能ではない」で表に示したとおり、感染者の少ない集団に対して新型コロナウイルスのPCR検査を行うと、陽性者に占める真の陽性者が非常に少なくなります。東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授が、先月に東京都内の1000人に対して行った抗体検査では、7人(0.7%)が抗体陽性でした。これを都内の人口に当てはめると9万人くらい、全国に当てはめると約90万人の感染者がいたことになり、PCR陽性者の都内では18倍、全国では50倍以上になります。この検査は、最近話題になっている簡易キットを用いた定性的な方法ではなく、精密な機器を用いた定量的検査で調べたものであり、かなり信頼性は高いと思われます。抗体陽性者は過去に感染した人なので、現在進行形で感染している人はこれよりかなり少なく、0.1%を超えることは考えられません。

 仮に今回のJリーグの検査対象者1万人に感染者が0.1%いるとすると、感度70%・特異度99%の検査(最も高い精度と仮定)を行うと、真の陽性;7人、偽陰性;3人、偽陽性;100人、真の陰性;9890人になります。つまり、Jリーグが4回検査を行うと、7人の陽性者が見つかり試合から排除され、同時に100人の選手や関係者も「無実の罪」で排除されます。排除された選手はおそらく次の試合にも出場できません。これは選手にとってはコンディションを維持する上で大きなマイナスになるだけでなく、収入にも影響します。これが合理的であるというのが世間の評価ですが、私にはリスクに見合うメリットがあるようには思えません。また、このようなやり方が標準になると、財政基盤が脆弱なスポーツや一般のアマチュア競技にまで広げていくには国の補助が不可欠ですが、それは可能で必要なことでしょうか。

 私はオリンピックにも甲子園の高校野球にも興味のない人間です。人権を売り物にする新聞社が、一つの球場を聖地として祭り上げ、高校生を炎天下に走り回らせるのは虐待だと思いますし、「正々堂々」や「涙と感動」を利用した商業主義には憎しみさえ持っています。今回の騒動ではゼロリスクを求める世論の批判を恐れてか、中止が決定されましたが、大会方式を変更するチャンスとすることはできなかったのでしょうか。サッカーでも野球でも、運動選手は健康な人が圧倒的多数で、たとえ感染しても重症化する可能性は極めて低いはずです。発熱などの感染徴候のある選手を休ませることは当然ですが、注意するのは観客です。まずは無観客で始めて、その後は人数制限をして、マスクの着用を義務付け、拍手や手拍子に限定した応援など試行錯誤を繰り返して、重症者が出るかどうかを見ながら進めていけばよいのではないでしょうか。学校も同様で、感染者が出たら学級閉鎖や学年閉鎖や休校を考えればよいのです。

 先ずは締めることは理解できますが、締めっぱなしも突然緩めるのも危険です。暴論と言われるでしょうが、若者は冬が来る前に感染しておいたほうがいいとさえ思います。高齢者や基礎疾患のある人への接触を避けて、感染したら速やかに治療受け、わずかな犠牲は受け入れるのが大人の対応です。ゼロリスクを求めるのは子供の発想です。冷静に試行錯誤をしませんか。


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