新庄徳洲会病院

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掲載日付:2020.07.22

Vol.194 「命の選別」発言に思う

 昨年の参議院議員選挙でれいわ新選組から立候補し落選した大西つねき氏が、配信動画での発言を糾弾され党から除籍処分を受けました。動画では少子高齢化が著しい我が国では、高齢者の医療や介護の場面で、様々な医療資源を平等に配分することができなくなることが、新型コロナ騒ぎで明らかになった、政治家は「命の選別」から目を背けてはいけないという至極まっとうな発言でした。これに対して、「命の選別とは何事か」、「優生思想である」、「障害者差別である」など多数の批判が党内外から浴びせられました。山本太郎代表も弱者に寄り添う党の根幹となる考えに反し看過できないとコメントし、党内の協議で除籍が決定されました。

 そもそも彼は高齢者は生きる資格がないとも、非生産的であるとも言っていません。財政面はさておき医療資源や医療従事者が枯渇することが予想される現代では、それを平等に分配することができなくなることが予想され、公平に分配するためには優先順位をつけなければならず、その際には年齢が重要になるということを言っただけです。これのどこが優生思想でしょうか。優生思想とは、優れた遺伝的性質を優先的に残すために、劣った性質は排除するという考え方で、歴史的にはヒトラーが有名ですが、我が国でもハンセン病者に不妊施術や堕胎を強制し、隔離が医学的に不要とわかった後も続けたことは分かりやすい例えです。

 大西氏は反緊縮財政を掲げ、どんどん通貨を発行すべきだと以前から主張しており、医療費が不足するから高齢者を見捨てろとは言っていません。彼の経済政策が理解できない私は、医療や介護にかかるコストの問題も重要と考えます。金の問題も重視している私は、ある意味で彼よりひどい考え方かもしれません。マスコミはこのような問題は避けることが多く、取り上げたとしても「真剣な議論が望まれます」というような無責任な言葉で問題を先送りにするだけです。議論するのが政治家の責任であるという彼の態度は誠実だと思います。

 日本よりも新型コロナが医療への深刻な負荷となった欧米では、集中治療室の入室制限や、人工呼吸器などの医療機器の使用制限が行われ、医療機関や公的機関が「80歳以上の集中治療室への入室禁止」を打ち出しました。高名な医学雑誌では、米国の研究者が医療設備の配分基準を提示しています。それによると、人工呼吸器をつけるのは若い人と医療従事者を優先する、医療従事者を優先的に救うのは命の価値が高いからではなく、助かったら人の命を助けることができるからです。回復の見込みが同じならくじ引きもありで、見込みが薄い患者の人工呼吸を外して他の助かりそうな患者に回すことも正当化されるというような、日本では考えられないようなことまで示されています。妥当性はさておき、このような議論ができる土壌は見習うべきです。

 多くの政治家は、どの世代からも票を獲得するために、甘いことばかりを公約として掲げ、多くの高級官僚は政治家に面従腹背で自分の老後までの生活設計を優先し、そして多くの国民は諦めるかそうでなければ都合の悪いことは自分以外の誰かのせいにします。我々に欠けているのは「覚悟」です。生きることを考えるのは同時に死ぬことを考えることです。覚悟なしでも生きていけるのは、若者が多く経済が成長し続けた時代の幻想です。世界一の高齢化社会である日本で優先順位を決めるなら、年齢が重要な位置を占めるのは当然です。それとも経済力や地位で選別される方がよいのですか。まさか自分は人間性が認められて生き残れると思っているのですか。

 「命の選別」が誰の仕事であるかについては次回で考えます。


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